40mPとたくさんの仲間が作り上げた感動の一夜
40mPが監修、事務員Gが企画したコンサート「虹色オーケストラ」が5月11日に兵庫・神戸文化ホール 大ホールにて開催された。このコンサートは7人の歌い手たちが、ストリングスやブラス、コーラス隊を含むたくさんの演奏陣をバックに40mPの名曲の数々を歌唱するというもの。神戸公演は2012年10月の東京・日本青年館に続く2回目のコンサートだが、その内容は前回とまったく異なるものになっていた。
会場には彼らが作り出すショーをひと目観ようと約2000人が来場。出演者自身がゼロからオーガナイズしたイベントとしては異例の規模となった。今回ナタリーでは神戸公演翌日に40mP、事務員Gの2人にインタビューを行い、終演後の心境やコンサートが実現するまでのエピソード、そしてこれからの「虹色オーケストラ」について話してもらった。
取材・文 / 橋本尚平
──神戸公演おつかれさまでした。ライブを終えた今、どういう気持ちですか?
40mP なんか、あっという間に終わりすぎて、まだあんまり実感がないんですよね。半年以上ずっと準備してきてたことが、2時間で終わってしまったので。
事務員G 今回の公演の開催は確か去年10月に、東京公演の最終リハのあとに決めたんですよ。神戸の会場が空いたから使えるよって言われて、居酒屋で酔っ払った勢いで「いっちゃえよ!」って(笑)。でも僕、絶対に2000人も埋まらないと思ってたんです。
40mP 東京が1300人で、がんばってなんとか完売させた感じだったので、「今度はちょっと完売は難しいかもしれないですね」って話をしてましたね。
事務員G だから怖かったですよね。どこまで凝ったものを作れるのかも、自分の中にはイメージがあったけど、お客さんが入らなければそれも実現できないわけじゃないですか。
──ライブが終わったあと、ほかの出演者の皆さんはどんな感じでしたか?
40mP 僕らはずっと舞台に上がってたので、楽屋裏がどんな状況なのか知らなかったんですけど、聞いた話だと歌い手の皆さんは控室に集まって、自分の出番以外は全員モニターで舞台の様子に見入ってて、中には感動して泣いてくださるような方もいらっしゃったみたいです。打ち上げの場でも、みんなずっとコンサートの話ばっかりしてるんですよ。普通、ライブが終わったあとはくだらない話ばかりになっちゃうものなんですけど、みんな「あの演奏どうだった?」みたいな話をしてくれて。たぶん、みんな同じ気持ちでやってたからそういう話ができたんだろうなと思って、すごくうれしかったです。
──企画者冥利に尽きますよね。ちなみに歌い手さんはどういう経緯でこのメンバーになったんですか?
40mP 基本的に僕が歌ってほしいと思った、信頼してる方に集まってもらいました。だからやっぱり、声かけられたほうも自分が選ばれたという自負を持ちながらステージに立ってくださったんだろうなと。
事務員G それぞれに責任を感じていただきたい、っていうのをこちらも望んでましたからね。通常のライブだと歌い手さんが「この曲をやりたい」って言って、奏者がその曲を練習するっていうパターンが多いんです。でも虹オケは曲を作った本人が全体を監修してるから、歌い手も奏者もすごくピリッとするんですよね。
40mP 原曲はボカロが歌ってるんですけど、今回に関しては歌い手さんに「自分の持ち曲だ」と思いながら歌ってほしくて。リハーサルが始まる前、出演者を集めて「今回、皆さんは奏者や歌い手であるのと同時に、役者です」って伝えたんですよ。今回のライブはストーリー仕立てで、その中を音楽で埋めていくみたいな構成なので、皆さんには物語を演じる役者として舞台に上がっていただきたいって。全員が1つの物語の一部を演じようとしているから、これだけたくさんの出演者がいても一体感が生まれたんじゃないかな。
──東京公演の時点では「絵本」っていうコンセプトはなかったんですよね?
事務員G そうですね。でも私が「1人のボカロPが監修するライブ」っていうものを考え始めたとき、最初に思い描いたイメージは今回の神戸のほうが近かったんです。40mPさんに最初に送った「こういうことを一緒にやりませんか?」っていう資料にも、「ストーリー仕立てのコンサート」って書いてありましたもんね。
40mP なので、東京公演は春夏秋冬の流れの中に楽曲を当てはめる構成にしてたんです。今回ほどストーリー性はなかったんですけど、映像と一緒に曲を楽しんでもらおうと思って。
──東京公演は途中にMCをはさみながら進行していたと聞きましたが、今回はカーテンコールでの40mPさんの挨拶まで、誰もひと言もしゃべりませんでしたね。
40mP MCは本番寸前まで相当もめましたよね(笑)。僕は「ひと言くらいはしゃべったほうがいいんじゃない?」みたいな話もしたんですけど、事務員Gさんが頑なに「ダメです。MCは一切入れません」って。
──それはやっぱり、物語の世界観を壊してしまうからですか?
事務員G そうです。1つの物語なのに、途中に休憩が入ると台無しになるので。物語というのは人によって捉え方は違うはずなのに、それをこちらから説明することほど無粋なことはありません。今回は一気に、息をつく暇もなくやりたかったんです。2時間くらいなら持つだろうと思ったんですよね。
40mP 僕が今回やりたいと思ってたことは、合唱だったり、絵本だったり、全部、事務員さんに実現していただいたんです。ただMCに関しては絶対折れなくて。
事務員G 最後の最後に妥協案で、40mPさんがカーテンコールでマイクを持つ、ってことにしたんです。あれは結果的によかったです(笑)。
40mP ちなみにうちの親父は、事務員さんの声が聞きたかったって言ってましたよ。事務員さんのトークが大好きなんだって。
事務員G ありがとうございます(笑)。でも、僕はあのステージ上が40mPさんの世界だけであってほしかったんです。
──だから、奏者や歌い手がメインになってしまう時間はいらないと。
事務員G すごく言葉を選ばなくてはいけない部分だとは思いますが。あの会場をレストランに例えると、シェフは40mPさんだと思っています。そして奏者が調理補助で、歌い手は料理を運ぶホールスタッフってところでしょうか。さしずめ、僕はレストランの内装をデザインして建設した人であり、ホールのスタッフをまとめるマネージャーですかね。で、基本的にはレストランに来るお客さんはホールの人が目当てではないはずです。シェフは調理場の中にいるから姿は見えないけど、お客さんは普通、料理を楽しみにレストランに来てくれるわけですよね。だからMCとか……「余計なこと」って言ったらちょっと失礼ですけど、歌い手さんの主観が入りすぎてしまうとそのバランスが崩れちゃうと思ったんです。なので、勇気がいることだと思いますが、MCはすべてなくしてしまいました。余計な脚注で逃げたりせず、「歌い手」は「歌」を、「奏者」は「演奏」に全力を出していただきたい、と。虹オケを見てくださるお客さまには、40さんの料理を楽しみに来てほしかったんです。その味を決めるシェフはもちろんですが、スタッフの力量も大事な要素です。
好評だった神戸公演のスタイルを踏襲し、曲目・演出等を一部変更した形式で実施。全来場者に入場時に頒布される絵本は、大宮公演用に一部が改定される。
ボーカロイドを使用したオリジナル曲を動画サイトで発表するボカロP。2008年からニコニコ動画にオリジナル曲の投稿を開始し、同年公開された2作目「Melody in the sky」で早くもネットユーザーから多くの注目を集める。アーティスト名は「Melody in the sky」の動画で使用された初音ミクのイラストが、周囲の建物と比較して巨大に見えると視聴者に指摘されたことが由来。その後も「からくりピエロ」「トリノコシティ」「妄想スケッチ」などの多彩な表情を持つポップソングで人気を確かなものにした。2011年にはテレビ東京系アニメ「FAIRY TAIL」のオープニングテーマ「Evidence」でDaisy×Daisyとコラボレートしている。
ニコニコ動画の「演奏してみた」カテゴリで活躍する演奏者。ピアノをメインにさまざまな楽器を同時に演奏する動画がネット上で大きな反響を呼んだ。2008年よりニコニコ動画でのパフォーマーを集めたイベントを企画し始め、2010年からは台湾・香港を始め海外でのイベント制作も精力的に行う。2012年にはボーカロイド楽曲214曲をつなげて弾いた映像がニコニコ動画「動画アワード」の「演奏してみた」カテゴリでMVDを受賞。2013年6月にはH ZETT M、紅い流星、まらしぃとともに4台のピアノでアニメソングをカバーするアルバム「4D-PIANO ANIME Theater!」に参加する。