インフォアクシア 植木真氏|特別インタビュー

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加藤

ところで、制作者側はアクセシビリティに対してどんな心構えで臨んだらいいのでしょう。

植木

アクセシビリティを後付けで考えているうちは無理があると思います。アクセシビリティを前提としてビジュアルも考えていかないと、本当の意味でアクセシビリティを考慮したサイトは作れないと思います。ウェブコンテンツは画面で見るだけじゃなく、音声にも変換できるし点字にも変換できる。そういうふうに、ユーザーが情報のカタチを自由に変換できるメディアだと思うので、まずそのことを一緒に考えていきたいですね。

以前、富士通のサイトをデザインしていたデザイナーさんが,「アクセシビリティを確保したコンテンツを作るようになって、制作の前提が変わった。ただ、前提が変わるだけであって、やることは変わらない。その新しい前提の上で、自分のクリエイティビティをどこまで発揮できるかが課題です」とおっしゃっていました。そういう意識の切り替わりが、もっと進んでくればと思います。

加藤

おしゃる通りですね。いままでウェブデザインというとビジュアルデザインが前提にありました。でも本来は情報をどう配置するか、情報デザインのところから入るべきなので、当然マークアップ前提のデザインになるのが当たり前なんです。とはいえ、見た目を重視されるお客様の意向もありますので、意向を理解しつつ、アクセシビリティやウェブ標準をお客様にどう説明できるかというスキルが求められています。

植木

アクセシビリティというと見た目がショボクなるとか、テキスト中心になるという誤解が未だにはびこっています。でもそれは全然違います。僕はきちんと読み上げられることが大事だと考えていますが、それ以上にビジュアルのデザインも重要だと思っています。大部分の人には視覚情報が中心なわけですから。僕は凄くビジュアルにはこだわってます。音声読み上げのためにビジュアルを犠牲にしろとはこれっぽっちも思っていません。

このあいだ、CSS Nite LP Disk 3というイベントで、ビジネス・アーキテクツの小久保浩大郎さんが「ウェブだけがユニバーサルデザインを実現できるメディアである」と話されてましたが、まさにその通りで、ウェブはユーザーが自分にとって一番都合のよいカタチに変えて情報を得ることができます。紙と違ってユーザー側に主導権があるのがメディアとしても一番の特徴だと思います。これからは、画面で表示されるビジュアルのクオリティだけでなく、音声や点字にもきちんと変換できる、そういうコンテンツを作れるスキルが求められるのではないでしょうか。

インタビューの様子写真
(上記画像右側)右から、インフォアクシア植木氏、デジパ加藤、デジパ土屋

加藤

これからのアクセシビリティはどう進展していくとお考えですか。

植木

もともと欧米ではアクセシビリティと言うと障害者を想定したものとして始まっているんですけど、それはもちろん大事なのですが、人間っていろいろじゃないですか。みんなに同じように見えるとは限らないし、みんなが同じようにマウスを操作できるわけではありません。それに、誰だって、歳をとればだんだん見えにくくなってくるし、聞こえにくくもなってくる。

毎年3月に、米国のロサンゼルスでCSUN(California State University, Northridge)というカンファレンスが開かれています。「障害者とテクノロジー」というタイトルの通りで、去年まではやはり障害者がメインだったんですが、今年は基調講演でシニアにとってのアクセシビリティという話が初めて出てきました。世界各国で高齢化が進み、高齢者がパソコンを使ってインターネットをするようになってきて、ウェブが日常生活にどんどん入り込んできているんです。その基調講演では、アクセシビリティは 「Quality of Life(日々の生活のクオリティ)」に直結するものだというふうに言ってました。ウェブのアクセシビリティは今後ますます日々の生活の向上に関わってきて、みんなにとってのアクセシビリティというものを考えていくべき時期に来ているんじゃないかなと思います。

土屋

高齢者まで視野に入れるとお客様に説明しやすいのですが、そうじゃない場合はアクセシビリティのメリットを感じてもらうのがなかなか難しいですね。結局アクセシビリティもSEOもCSSもウェブ標準ということでいっしょなんですけど。

植木

アクセシビリティでユーザー数の話になってきてしまうと、そんなもんですかみたいな話になりがちです。SEOもいまは単にソースコードだけじゃなく、どれだけリンクが貼られているかなど違うところが重視されているということもあります。でもコンテンツ側でできることを100%やらないでいいんですか、という話をするようにしています。ほかに、CSR(企業の社会的責任)みたいな入り方でも、きっかけは何でもいいんですけど、「木を見て森を見ず」という担当者さんがまだまだ多いですね。実際には、アクセシビリティの土台には、ウェブ標準があるし、ユーザビリティやインフォメーションアーキテクチャなんかとも話がつながっていくんですよ。

加藤

そうですね。本来はすべてを引っ括めてウェブサイトなわけで、アクセシビリティだけ、ユーザビリティだけという時点でまだまだなわけですね。ところでアクセシビリティ関連の今後のスケジュールはどうなっているのでしょうか。

植木

WCAG 2.0のワーキングドラフトが、最終的に勧告になるのはだいたい来年の夏くらいかなと思います。リハビリテーション法508条の改訂も準備に入っているんで、WCAGワーキンググループもそうのんびり構えてもいられない状況にあって、いまスピードアップしています(笑)。あとJISのほうも5年おきに必要があれば改訂する決まりになっているので、次は2009年。2008年にWCAG 2.0が出たら、それを踏まえたものに改訂されるでしょう。また、JISでは評価手法の検討がはじまっています。JISマークをつけるのとは違うスキームの話ですが、認証制度についてより具体的に詰めているところです。

加藤・土屋

お忙しいところありがとうございました。

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※インタビューに掲載されている企業・団体様の活動と弊社は一切関わりがございません。

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