しかしいずれにせよ、橋下は最初のうち、発言の報じられ方に満足していた。テレビのコメンテーターに向けては「全文を読め」「小金稼ぎのコメント」などと不満を露わにしていたが、少なくとも新聞報道に対しては「よく書けている」と言わんばかりだった。言い分が180度変わったのは15日昼前に投稿したツイッターからである。
〈朝日新聞が批判の急先鋒に立つのは分かるが、今回の報道はフェアじゃない。僕はフェアかアンフェアかを重んじる。朝日新聞は見出しで、僕が「現在も」慰安婦が必要だと言っているような書き方をしている。これは汚い。僕は「当時」は世界各国必要としていたのだろうと言ったのだ〉
事後の説明によれば、朝日の14日朝刊社会面およびネット掲載時の見出しを指しているのだという。その当否はともかく、橋下はここからはっきりとメディア攻撃に転じた。「反発を招いた責任は自分の発言にはなく、メディアの報じ方にある」と主張し始めたわけだ。
17日退庁時の囲み取材では、朝日の記者が言葉遣いの不用意さを指摘したことに激昂し、「じゃあ囲み全部やめましょうか」「一言一句全部チェックしろと言うんだったらやめます」と打ち切りを宣言。去り際に「今回は大誤報をやられたんでね」と言い放った。
ところが、土・日曜を挟んだ週明け20日の退庁時、橋下はまたこの場に現れた。そして、記者たちは「誤報」と断じた理由を質すことも、抗議することも、謝罪や撤回を求めることもなく、いつものように彼を囲み、彼の主張に粛然と耳を傾け続けたのである。冒頭で橋下が語った囲み取材再開(実は一度も中止になっていないのだが)の理由はこうだ。
「このまま市長を辞めるまで囲みを受けないわけにはいかない。どこかで再開する時に、期間が開いてしまうと、自分のメンツを気にしていろんな理由を付けないといけない。そういう状況になるぐらいだったら、早く再開してしまったほうがいい」
意味がわかるだろうか。正直、私にはよく意味がつかめない。いや、日本語として理解はできるが、理由にも何にもなっていない。その日の夜遅くネットでこのニュースを見た私は驚いた。記者たちはこれで納得したのだろうか。いや、それ以前に彼らはなぜ橋下の「大誤報」発言に反論しないのか。
メディアの根幹である報道の信頼性を毀損する問題である。どこがどう誤報か、説明を求めないのか。当初「正確」「フェア」だと言っていたのが豹変した理由を尋ねないのか。何より、記者たちはなぜ再びいそいそと囲み取材に集まるのだろうか。こんな放言を不問に付したまま。
橋下とメディアは"共依存"に陥っている
橋下は囲み取材打ち切りを宣言した晩から週末にかけて、例によって憑かれたようにツイッターに大量の投稿をしている。朝日の記者を名指しで批判し、報道のあり方について講釈を垂れ、毎日に対しても「頭悪い」「バカ」などと罵詈雑言を浴びせた。にもかかわらず、囲み取材再開に当たって、両社ともこれに抗議や反論をした様子はない。
それどころか、橋下の怒りを買った朝日の記者は「一言一句、全部正確にしゃべれと言ったつもりはございません」と自身の発言を釈明し、同社の別の記者はそれに重ねて「(慰安婦制度が)必要とは何だったのか(どういう意味なのか)質すべきだった」と、取材の至らなさを反省する弁まで述べていた。
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