何かのスイッチが入ったように滔々と淀みなく言葉を繰り出しながら、また、ふつうの政治家なら慎重に構える話題を挑発的に語っていながら、言葉尻をとらえられたら、どうとでも反論や言い逃れができるような表現だと思った。かつて『最後に思わずYESと言わせる最強の交渉術』なる指南書を出版し、「詭弁も、言い訳も、うそもあり」と堂々と説いてみせたほど、弁舌に絶対の自信を持つ橋下らしいと言えば、橋下らしい。
挑発的な言動で注目を集め、批判されれば天才的(いや、悪魔的というべきか)な論争術を駆使して反駁する---という手法。この時も、当初は"独演会"の成功に彼自身満足していたのかもしれない。
「従軍慰安婦」発言がまず当日の各紙夕刊で報じられ、さらに「風俗活用」発言も合わせた続報が載った5月14日の朝刊段階において、橋下はツイッター上で新聞報道をこう評していた。
〈批判の急先鋒に立つ朝日新聞も、僕の発現(※原文ママ)を比較的正確に引用してくれていた〉
〈毎日新聞も僕に対する批判の急先鋒だが、かなりフェアに発言要旨を出している〉
〈これから選挙も近づいてくるので、色々煽ってくるでしょうが、それでもこの毎日の一問一答がある意味全て〉
ちなみに、新聞各社のニュース判断は初報段階から温度差があった。橋下が「批判の急先鋒」と見なす朝日と毎日は揃って一面や社会面で大きく扱った。大阪本社最終版の見出しと扱いは、それぞれこうだ。
【朝日】
13日夕刊1面 = 橋下氏「慰安婦必要だった」/「侵略、反省・おわびを」
14日朝刊第一社会面 =「慰安婦は必要」波紋/橋下氏発言/市民団体「声聞いて」 研究者ら「国益上危険」
【毎日】
13日夕刊1面 = 橋下氏「慰安婦必要」/第二次大戦中 軍隊休息の制度
14日朝刊第一社会面 =「女性への冒とく」/市民団体憤りの声/歴史認識疑問視も
両紙とも発言を報じた本記と、市民や関係者の反応をまとめた雑感に加えて、社会面に発言要旨や一問一答、研究者らの談話を載せ、3面などで中央政界への影響や反応を展開している
これに対し、読売と産経の初報はいずれも夕刊2面という地味な面で、「いちおう入れておいた」という程度の小さな扱い。読売の14日朝刊は「慰安婦拉致への日本政府の関わりを橋下氏が強く否定した」という内容がメインで、「風俗活用」発言には文中で短く触れるのみだった。
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