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自転車ツーキニストでいこう!疋田智の連載えっせい

疋田智

第4回 ピスト!ピスト!ピスト!


11月に開催された自転車展示会の「サイクルモード」でもメインステージでトークショーを行いました。


自転車ツーキニストの必須アイテムはライトとチェーン錠。サイドミラーやサイクルコンピューターもあれば万全。



今は断然ピストが欲しくなってしまった。しかもシングルとフリーギアが兼用できるヤツが。


クール!自由!都会そのもの!

いやー、ホントに流行ってるなぁ、ピスト。
 私は都心を走る機会が多いから、交差点で信号待ちをするたび、普通に走っているたびに多くのピストレーサーと遭遇する。もはや、東京の自転車ブームの大きな一翼を担っているのが(なぜか)ピストであることを、私は否定しない。その風景はもはやニューヨークを超えているとすらいえる。ここまでの数のピストが走っている首都(でなくとも大都市)は、世界広しといえど、東京だけなのではないか。
 競技トラックを走る、短距離用の固定ギア自転車「ピストバイク」だから、もとより街乗りには向いていないには決まっている。だが、ママチャリが蔓延するこの日本では、主に若い世代がこの特殊自転車に積極的な意味を見いだした。ピストはクールである、ピストは自由である、都会(シティ)そのものである、と。
 その気持ちは分からないではない。時代と地球が要請している、この自転車的なる革新的カルチャー。しかも自由。そこにはある種の正義がある
 だが、その「自転車の意味」とでもいうべきモノを、その辺のチャリンコと一緒にするな、ママチャリとはまったく違うんだ、という意識が、ママチャリの極北たるもの、すなわちピストを選ばせたといえるのではないか

乗り換え組み!ローディ!ピスト乗り!

昨今の私はあることに気づいている。
 都心に増えたスポーツ自転車は、大まかに分けて3つのグループに分けられる。
 一つ目のグループは、ママチャリからクロスバイク(または小径車)への乗り換え組で、この人々は自転車そのものよりも「自転車通勤(または単に“街乗り”)」という目的がまずあり、その用途に応じて、この自転車を選んだという人々だ。
 二つ目のグループが、ロードバイクに乗る人々。もちろんクロスバイクからさらに速い自転車を求めた結果の街乗りローディも多いが、最初から趣味の延長である人も多い。その人々は当然、レーパン、ジャージ着用のパターンが多くなる。ヘルメット装着率も非常に高く、総じて交通法規をよく守る。私は彼らを「路上の良心」ともいうべき存在だと思っている。 そして最後の三つめのグループが、ピストバイクなのだ。ピスト乗りの服装は至極自由だ。レーパン着用率などゼロに近く、思い思いの普段着のまま、車道を疾走する。結構速い。
 その三つのグループを日々見ている。そして、そういう昨今の中、だんだん私は気づいてきたのだ。自転車ツーキニスト疋田の走行スタイルは、自分自身、意外なことに第三のグループに非常に似ていることを。
 彼らの姿は「自転車の本質は、路上の自由性にあり」などと酒を飲むたびにわめいていた10年前の私の姿と大いに重なる。私はちょっと驚いている。41歳ヒキタにとって、年齢的にも、趣味的にも、最も離れたところにいると思っていた彼らは、実は心の奥の方で、まんざら共通点がないわけではない、と思い当たったからだ。

ダイレクト!一体感!突き抜ける!

元来で言うなら、ピスト自体は別段責められる種類のものではない。咎を負うべきは「ノーブレーキ・ピスト」であって(これはホントに危ないからやめてね)、ピストというもの自体は、ただ「公道上の新参者」というにすぎない。そのフレッシュ感、革新性に惹かれるのは若い世代なら当たり前のことだ。
 また、事実、ピストは面白い。ダイレクトな走行感といい、路面と自分が一体化するかのような不思議な感覚、あたかも地球というものを自分のペダルで廻しているかのようだ。ここにはフリーの自転車(つまりピスト以外のほとんどの自転車だ)では得られない突き抜け感がある。
 また最近のピスト乗りは、だんだん運転術も心得てきた。ピストが苦手な急カーブの際、きちんとリーンイン(自転車の角度よりライダーの角度を内向きに傾けたフォーム)で、パスするピスト乗りが目に見えて増えたと思う。ま、そうでなくては、ペダルが路面に接触して、転倒してしまうからね。
 ブレーキ装着率も上がった。ここには一連のショップの「ブレーキ付けましょう」キャンペーン(?)がやはりきいているのだと思う。いい話だ。路上はそうして少しずつ棲みやすくなっていく。

軽さ!スピード!トラブルフリー!

先日、こんな風景を見た。
 東麻布あたりで私を追い抜いていったピストの青少年なんだけど、お、速いな、でも目の前、赤信号だな、どうやって停まるかな、と思ってみていたら、ペダルをストップし、自転車を惰力走行させ、普通にブレーキで停まった。あれれ、ということは、ピストではない? しかり。後輪ハブはフリー。ただのシングルギアードのスポーツバイクに過ぎなかったわけだ。
 ふーむ、私は拍子抜けしながらも、彼の乗っている自転車の後輪ハブを確かめる。
 案の定だ。後輪ハブの両端それぞれに一枚ギアが着いている。
 つまりこのリアホイールは、片方にフリーギア、片方に固定ギアを備えていて、リアホイールを逆に差し替えると、ピストがノーマルに、ノーマルがピストになるというわけ。最近流行りなんだってね。
 恐らく彼は、当初、ピストの戦闘的な魅力に惹かれたけれど、街乗りを繰り返しているウチに、結局、毎日固定ギアでチェーンホイールをブン回していることに疲れてしまったのだろう。で、どうでもいいときは(つまり仲間と一緒にいないときは)リアホイールを差し替えて、ノーマル自転車にしてしまった。
 それはそれでいいと思う。そっちの方が快適だよ。しかし、こうなると彼の行き着く先は……、うーん、やはりディレイラーも欲しいな、ドロップも悪くないな、ということになり、いつの間にかロードバイクになってしまうのだろう。それも悪くない。ウェルカムトゥ・ロードバイクワールド。
 しかしその彼の姿は、私にとっては逆に作用したのだ。
 私はその彼を見てて断然ピストが欲しくなってしまった。ピスト! というとやはり気合いが必要だ! という感じを抱いていたのだが、それが「いざというときは普通のシンプル・スポーツバイクに変えればいいだけだ」と思えば、気が楽だ。そんなに気合いが要らない。
 となると、このシンプルの極北たる自転車の「軽さ」「スピード」「短距離の強さ」「トラブルフリー」がものをいって、昨今の私の、都内街乗りスタイル(いろいろな事情から一日平均15q程度しか走らなくなってしまった<涙>)には、実にぴたりということになるのではないか。
 うーむ、そんなこんなでまだ買ってない
 カタログやネットでしょっちゅうピストを見つめている私である。


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