論点:生活保護とギャンブル
毎日新聞 2013年05月17日 東京朝刊
受給者は万策尽きて、福祉事務所に来る。金銭管理が苦手で計画的に支出するという基本的な生活習慣が確立されていない人も多く、根気よく生活の改善を指導するしかない。法目的が達成されない場合、生活保護の停止・廃止の処分もあり得る。現行法令にのっとって指導すべきであって、市民の監視で解決できるものではない。
リーマン・ショックを契機に貧困が顕在化し、生活保護費が自治体の財政を圧迫している。だが、受給者は、食べられればいい、服を着ることができればいい、という生活を強いられる存在ではない。福祉の現場にいると、「高級車に乗っている」「パチンコをしていた」という通報が多く寄せられた。調べたが、名指しされた人たちは受給者でなかった。「受給者は怠け者」という論調がエスカレートしている。
母子家庭の場合、母親が服装や化粧品を倹約し、パートで費用を捻出したとしても、子どもを英語塾やピアノ教室などに通わせると、周りは黙っていない。しかし、将来への先行投資ができなければ、貧困の連鎖は断てない。地方では家庭の事情を知られやすく、受給者は自己抑制する。恥の文化も根強く、受給を子どもにすら知られたくない。行政は、そういう心情にくみしないといけない。
生活保護は社会保障の最後のセーフティーネットであり、国民全員が背負わなければならないコストだ。さまざまな声に耳を傾け、冷静なバランス感覚を持ち、社会的弱者に十分配慮することが行政に求められる。
貧困の連鎖を断つには若年層の就労支援のほか、生活困難な一人親世帯などへの支援の専門性を高めることが必要で、そこに公共財を投入すべきだ。社会福祉士の有資格者がケースワーカーの4%しかおらず、支援する側の質の確保も重要だ。自治体の職員に限りがあるのなら、教育・キャリアの支援を専門のNPOに委託するなど民間に任せる分野がないかどうかも考えなければならない。
そういう自立支援を重視する政策に取り組まなければ、条例は正義論をふりかざしただけのバランスを欠いたもので終わってしまう。【聞き手・二木一夫】
◇公私喪失の社会を象徴−−佐藤健二・東京大大学院教授
今回の条例は、「公的なものと私的なもののバランスの喪失」という現代社会の姿を象徴しているように思う。