論点:生活保護とギャンブル
毎日新聞 2013年05月17日 東京朝刊
生活保護費をギャンブルなどに浪費している人を見つけたら市役所に通報する。
市民にそういう責務を課す条例が兵庫県小野市で今春、施行された。
年々増加する受給者は全国で215万人。
適正な使い方が求められているとはいえ、条例で監視することは妥当なのか。
◇受給の適正化、進めたい−−蓬莱務・兵庫県小野市長
条例の狙いは二つある。一つは「無関心から関心へ」。市民とともに関心を持って生活保護制度を自立支援という本来あるべき姿に戻す。もう一つは制度自体の信頼回復のため、公務員の「事なかれ主義」という不作為の連鎖を断ち切ることだ。
全国で173億円の不正受給(2011年度)が現にある中で今のままでいいのか、市民も公僕も真剣に考えようと。条例が全国で話題になったのは、誰もが生活保護費の使われ方に疑問を持ち、制度が信頼を失っているからだ。
市にはたくさんの情報が寄せられ、私はその全てに目を通す。昨秋ごろ、匿名で「生活保護費がギャンブルに使われていいのか」という情報があった。また、生活保護費の支給日に市長室に向かう途中、窓口に集まった受給者から「どこのパチスロに行くんや」という会話が聞こえてきた。
それで担当部局に検討を指示したのがきっかけだが、私たちは「自分たちには関係がない、関わりたくない」と制度に無関心だった。
税金がどう使われているのかに市民も関心を持つべきだ。だから条例に市民の責務を明記した。一言で言えば、見守り条例だ。人口約5万人の市には90近いコミュニティーがあり、古き良き連携がとれている。神戸や大阪と違い、「あんた、こんな使い方してたらあかんで」「そうか、やめるわな」という会話になる。そういう社会が本来はいい。それを「監視社会」と受け取るかどうかだ。
私はビジネスの世界から入り、官と民との決定的な違いが分かる。公務員は「無理をしない社会」。何か起きないと動かないということを私は問いたい。
市の生活保護の受給率は昨年11月現在で0・29%と県内で2番目に低い。それで条例をつくる必要があるのかと聞かれるが、そう思うことがだめだと言っている。
受給世帯は5年前の1・64倍に増えた。07年にいじめ等防止条例、12年に空き家等適正管理条例をつくったが、今回の条例を含めて共通しているのは、何か問題が起きてから制定したのではないということ。後手から先手管理への転換だ。