中高年退職者を食い物に!
ハローワークが紹介する“辞められないブラック企業”
ハローワークなどに紹介されて応募し続けても、なかなか再就職できない――そんな読者の方からのメールが数多く寄せられている。
中には、やっと就職先が決まったと思ったら、そこは「ブラック企業」だったという話も少なくない。
なかなか雇用環境の良くならない時代、こうした履歴の空白の長期化が、「大人の引きこもり」の入り口になっていくケースは、確実に増えつつある。
今回、紹介するのは、“辞めさせないブラック企業”に勤めているという読者で、都内に住む40歳代後半の高城和雄さん(仮名)だ。
会社は儲かっているのに
給料がどんどん減っていく!?
銀行の営業職員として二十数年勤務した後、ハローワークに紹介され、都内にある金融会社の支店開設業務に応募したのは、3年近く前のこと。それまでも主に、銀行でローン関係の仕事をしてきたという。
「仕事を辞めたのは、上司が白と言ったら白と言えみたいな、前から決まっていることに従う銀行特有の前例主義が嫌になって…」
こうして失業手当を申請し、通い始めたハローワークは、「2度と行きたくない嫌な雰囲気だった」という。
ところが、支店のオープニングメンバーとして新たに入った会社は、ハローワークで提示された条件とは違う“ブラック企業”だった。そこでは、業績が良くなっていくにつれて、なぜか給与が下がり続けたのである。
「儲かっているのに、なんで給料が減るの?」
と、高城さんは、疑問を抱いた。
「まず、年間120日の休日という約束が、反故にされました。また、最初に提示された月額30万円の給与のうち、5万円の年齢給部分が徐々にカットされ、月額25万円に減額。半年後には22万円にされました。いまでは20万円とインセンティブという形になっていますが、インセンティブも雀の涙です」
残業代も口約束だけで支払われない。通勤費などの交通費が減額されていったのも、求人票の条件とは違う。
しかし、こんな職場環境にもかかわらず、誰からも反対の声が出なかった。
どうして労基署などに訴えないのか?と聞くと、高城さんはこう答える。
「労基は、長時間勤務の職場が多すぎて、査察に入れないんです。従業員の誰かが告訴でもしない限り…」
そんな状況が放置され続けていること自体、なかなか想像ができない。
“次がない”中高年がターゲット
相場の半分で使い倒して辞めさせない
結局、同社に来るのは、ハローワーク経由で来た高城さんのような中高年世代。辞めたところで、なかなか次が見つからない。
「辞めないことを逆手にとって、どんどん給与を減らしていく。どうせ辞められないんだから、こっちの条件に文句を言わず、働け!とばかりに、足元を見て好き放題している会社でした」(高城さん)
多くの中高年サラリーマンたちは、辞めても次がないから、生活のためにしがみつかざるを得ないという事情を抱えている。とくにローンのある人なら、なおさらだ。
「本来の“ブラック企業”といえば、夜遅くまで残業させて、会社を辞めさせてしまうことが多い。ところが、うちの会社は逆で、相場の半分くらいの給料で使い倒している。中には、仕方ないとあきらめて、働いている人もいます。そういうタイプの“辞めさせないブラック企業”でした」(高城さん)
こうした“辞めさせない”企業の話も最近、増えつつある。辞めたいと言うと、会社が辞めるのを妨害し、いつまでも働かせるというのだ。
高城さんの会社では、こうして辞められない、主に40歳代以上の足元を見て、給与を安価に引き下げたうえ、こき使い続ける。
おそらく真面目で感性の豊かな人ほど、誰にも相談できないまま、一生懸命に働き続け、心身を摩耗させていくのだろう。
「利益」は先に決まっていた!?
黒字なのに給料が減り続けるカラクリ
そんな状況から脱け出すには、次の転職先を見つけるか、別の職場からオファーの来るような資格を取るしかない。無理し続けるくらいなら、思い切って会社を休職しても、辞めてもいいと思う。
しかし、高城さんによると、ほとんどの社員は、あきらめているようだという。
「うちの会社のカラクリを最近、知りました。普通の会社の考え方は、売り上げから経費を引いて、利益を出します。ところが、社長の考えは、違う。売り上げから利益を引いて、経費を出している」
つまり、最初に利益が決まっているのだという。
社長の説明する理由も一見、もっともらしい。
「最初に利益を出さないと、つぶれてしまう。従業員の生活を守れないから、利益を引いている」
高城さんによれば、この説明には2つのウラがあるという。
それは、金額を具体的に入れていないことと、会社をつぶさないために利益を計上することだ。
「もし利益を計上してつぶれないのなら、黒字倒産はあり得ません。一方で、日本の中小企業の7割は赤字なのに、なぜつぶれないのか、疑問に思いました」
社員総会で、社長がこの選択肢を示して選ばせたとき、社員のほぼすべてが、利益を計上する案に手を挙げたという。
しかし、お気づきのように、売り上げが良くても利益を上げれば、経費は下がる。だから、業績は良くなっているのに、内部留保が膨らむ一方で、経費にあたる社員の給与や交通費は下がり続けたのだ。
コンサル的には、経費を上手く抑え込んで、上手に経営しているように見える。赤字になったことがないと豪語しているような中小企業の中にも、こうした従業員への人件費や経費を低く抑え込むスキームが使われているかもしれない。
天引きの住民税は「未払い」に
ブラック企業の余波は続く…
その後、高城さんは、運よく次の転職先が見つかって、この会社から脱却することに成功した。
しかし、転職エージェントからは、「辞めた会社の給料が踏襲される」と指摘された。だから、次の職場では、実力で上げていかなければならない。
記事にするにあたり、高城さんからは改めて、こんなメールが寄せられた。
<辞めるときも「退職金を払う」と言っておきながら、いまだに振り込まれていませんし、最近になって、住民税を給与から差し引いていながら、払っていないことが発覚しました>
<この就職難の時代に、中高年退職者を“食い物”にする「ブラック企業」は、世間から退場すべきです>
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