B肝スペシャルと題しまして、B型肝炎の最新治療や B型肝炎ウイルスの再活性化のリスクとその予防についてシリーズでお伝えしてきましたが、シリーズ最終回の今回は厚生労働省研究班による平成25年B型肝炎ガイドラインの主な改訂点について、虎の門病院 分院長の熊田博光先生にお話をお伺いします。
平成25年ガイドラインの基本指針について
まず初めに、平成25年ガイドラインの基本指針についてご解説をお願いできますでしょうか?
厚生労働省のウイルス性肝炎に対する最新の治療法の標準化を目指す研究班では、最新のエビデンスに基づいてガイドラインの改訂を毎年行っています。
B型慢性肝炎の治療は、HBV DNAを持続的に陰性化することが重要なことは、昨今報告されている核酸アナログの長期治療のデータからも明らかであります。
しかし、肝発癌にはHBV DNAだけではなく、その他の因子も関与することが最近明らかになってきました。
つまり、HBV DNA陰性化でALTが正常化すれば、肝発癌が抑制されますが、HBs抗原陰性化が起こると、さらにより一層、肝発癌が抑制されるという研究があります。
こうしたことを受け、平成25年のガイドラインでは、 HBs抗原の陰性化も目指すべく、核酸アナログ製剤とインターフェロンの使用によるHBV DNA量の持続的な抑制とHBs抗原陰性化を第一の治療目標とすることを基本方針としました。
治療開始基準の改訂内容について
今回の改訂では治療開始基準がより厳格化された印象を受けますが、その内容について具体的に教えていただけますか?
具体的な治療戦略に関しては、従来どおり、自然経過ではセロコンバージョンやインターフェロンによる治療効果が期待できる35歳未満とそれ以上で分けていますが、治療開始基準は35歳未満あるいは35歳以上、HBe抗原の陽性あるいは陰性に関わらず、HBV DNA量が4.0 log copies/mL以上でALT値が31IU/L以上としました。
さらに、肝発癌の高リスク群である肝硬変に関しては、HBe抗原の陽性、陰性の有無、ALTの値に関わらず、HBV DNAが2.1 log copies/mL以上であれば治療を開始するようにしました。よりDNA量に基づき厳格に規定したことが特徴です。
また、高ウイルス量の症例では、インターフェロンの投与によってもHBe抗原やHBs抗原の陰性化が得られにくいことより、7.0 log copies/mL以上の場合にはバラクルードの先行投与を考慮することとしました。
一方の35歳以上の治療としてバラクルードを第一選択薬とすることに変わりはありません。
核酸アナログ製剤の長期投与に伴う問題点とその対策
核酸アナログ製剤の長期投与によるデータが出てきつつある中、アデホビルの減量基準に関しまして、ご説明いただけますでしょうか。
実際に、核酸アナログ製剤によるB型慢性肝炎の治療は長期にわたるため、耐性株の出現が問題になります。
そこで、ラミブジン単剤投与例については、耐性株出現に対する懸念から、従来よりバラクルードへの切り替えもしくはアデホビルの併用を推奨しています。
ラミブジン耐性株出現の場合には、アデホビルの併用をする治療指針でありました。しかし、アデホビルの長期投与例では腎機能が低下し、さらにFanconi(ファンコニー)症候群と呼ばれる骨折を引き起こすことが明らかになってきました。
そこで、それらの予防を目的にアデホビルの減量の基準を策定しました。
Fanconi症候群による骨折の機序は、まず始めに血清のリン値が低下し、その後eGFRが低下して、骨折が生じます。
そのため血清のリン値が2.5mg/dl未満で持続したり、アデホビル開始時と比較してeGFRが30%低下した場合。さらに、リン値が2.0mg/dl未満であれば、eGFRの低下に関わらずアデホビルを隔日投与に減量するようにしました。
薬剤耐性時の治療ガイドライン
核酸アナログ製剤で問題とされている耐性株出現について、対策と今後の展望をご教示ください。
B型肝炎ウイルス再活性化における変更点ついて
最近話題となっているB型肝炎ウイルスの再活性化について昨年からの変更点はございますか?
視聴されている先生方へのメッセージ
最後に、視聴されている先生方へのメッセージをお願い致します。
我々の研究班では最新の適切なB型肝炎治療が広く行われることを目的として、エビデンスの収集と解析に基づくガイドラインの改正を毎年行っています。
平成25年度のガイドラインでは、肝発癌抑制のためのHBV DNAの抑制を求めました。
また、各抗ウイルス薬の切り替えや減量基準を明確に記載しました。
このガイドラインが活用されることで、多くの臨床現場で適切なB型慢性肝炎治療が提供されることを期待しております。