【コラム】中国当局の手に負えないモンスター経済-ペセック
6月25日(ブルームバーグ):世界は中国指導者がその巨大経済を巧みにコントロールしているものと思っていた。中国は2008年の金融危機もうまく乗り切り、2桁に近い成長率を維持している。だから中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁が先週、過剰流動性の引き揚げを始めようとした際、市場関係者は中国のポール・ボルカー(元米連邦準備制度理事会=FRB=議長)が現れたと歓迎した。最悪期が過ぎた今は与信を抑制し、信用バブルが膨らむのを防ぐべきときだと周総裁が意思表示したと受け取った。
しかし現実が立ちふさがった。銀行間市場の翌日物レポ金利が過去最高の13.91%に跳ね上がり、周総裁は退却を余儀なくされ、混乱を防ぐため流動性を供給しなければならなかった。マネーマーケットは混沌(こんとん)と化した。周総裁が中国の安価なマネーの時代を終了させる兆候をある者は憂慮し、別の者は同総裁にその力がないことを不安視した。
実際、今週に入っても収まらない不安は周総裁の力の限界を示している。過去10年の間に、中国経済は過度の与信拡大に依存するようになった。国有銀行は国内総生産(GDP)を増大させるのに必要な多数の高層ビル、高速道路、空港、ダム、そしてゴーストタウン建設の資金を供給することを奨励された。豊かな流動性は主として国有企業に流れ、株価と不動産価格を押し上げるとともに、海外投資家の中国への見方を強気にし、13億の国民の不満を抑えてきた。
巨大なブラックボックス銀行に打撃を与えずに周総裁がマネーを引き揚げることは、今や不可能だ。恐ろしいのは、中国国有の巨大銀行の真の健康状態やシャドーバンキングシステムの本当の規模が誰にも分かっていないことだ。スタンダードチャータードのスティーブン・グリーン氏(香港在勤)は中国の信用システムを評して「巨大なブラックボックスであり、非常に恐ろしい」と形容したが、それは誇張ではなかった。
重要な集計データが謎のままでは、中国政府が発表する成長率7.7%を信じることができるだろうか。バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチの中華圏経済担当責任者、陸挺氏(香港在勤)は、中国の貿易黒字は5月半ばまでに発表された公式統計の610億ドル(約6兆円)の1割にとどまると指摘し、政府の不興を買った。しかし中国の信用システムについて、その規模も質も過剰度合いも分からないというのは、世界経済にとって貿易よりはるかに大きな不安要素だ。
中国の指導者は2008年に次のバブルを作り出すことでバブル破裂を防いだ。しかし、つけを支払う時期を永久に先送りすることはできない。中国全体の借り入れ額は今四半期にGDPの200%となり、08年の130%から増加する公算が大きい。中国本土の銀行はこのところ5年ごとに、米国の銀行システム全体に相当する規模の資産を増やしてきた。
中国当局は伝統的に、不透明性を銀行と企業間の資金移動を取り締まる際の強力な武器と位置付けてきたが、それが危険であることが分かった。中銀は銀行間市場の流動性を引き締める計画であることを明言し、その方法や目標を明らかにしなければならない。沈黙は市場の不安を増幅させている。
創造主の役割一方で、周総裁は基本的にどうすることもできない。中国の政治指導者が共産党に銀行事業から手を引かせることを決めるまでは、中銀総裁は効果的に行動できない。中国は資金をむやみに配分することをやめ、資金コストを経済実態に見合ったものにする必要がある。中国政府が経済における国営企業の役割を減らすことを真に望むならば、まず銀行を民営化することが必要だ。なぜなら民間部門の繁栄のみが革新を促し、競争力を高められるからだ。
こうした困難な仕事を先送りしてきたことで、中国経済はフランケンシュタインのような怪物に姿を変えた。異端の実験によって作り出された巨大で強力な存在に対し、創造主はコントロールを失いつつある。
中国の習近平国家主席と李克強首相が直面する課題は誰もが尻込みしたくなるようなものだ。減速しつつある経済のかじ取りをしながら重要な改革を実施しなければならない。それも市場をパニックに陥らせたり、社会不安を招いたりすることなく実行する必要がある。
ショック療法は常に痛みを伴う。しかも、効果を出すためには症状だけでなく、病根を治療しなければならない。周総裁が信用引き締めを図るたびに、市場は恐れおののくだろう。中国のフランケンシュタインにブレーキをかける必要があるのは確かだが、それができるのはその創造主だけだ。(ウィリアム・ペセック)
(ペセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)
原題:China Loses Control of Its Frankenstein Economy: WilliamPesek(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:東証 William Pesek wpesek@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Nisid Hajari nhajari@bloomberg.net
更新日時: 2013/06/25 10:04 JST