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神話の果てに−東北から問う原子力
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核廃棄物/多種多様、東北に滞留

 膨大な量の放射性物質が東北に蓄積されている。青森県六ケ所村の核燃料サイクル施設には、全国の原発から使用済み核燃料が運び込まれ、再処理後に残る高レベル放射性廃棄物も保管している。東通、女川、福島第1、第2各原発のプールにも核燃料は保管中だ。さらに福島第1原発事故によって大量の除染廃棄物などが発生した。第1原発の廃炉作業も多くの廃棄物を生み出す。最終処分地はいつ決まるともしれない。東北にはそれまで、多種多様の核廃棄物が居座り続ける。

◎高レベル放射性廃棄物/処分地選び、難航確実

 日本の原子力政策は、使用済み核燃料を全て再処理してプルトニウムを取り出すのが建前。再処理後に残る高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化体に加工して最終処分を目指す。
 電力各社はイギリスとフランスにも再処理を委託しており、返還されたガラス固化体が青森県六ケ所村の貯蔵施設に搬入されている。
 1995年4月以来、フランスから1310本、イギリスから132本が戻ってきた。今後、イギリスからさらに約800本が返還される。フランスからは低レベル放射性廃棄物の返還も予定されている。
 試運転などによって、六ケ所村の再処理工場でも約300本のガラス固化体が発生した。再処理工場がフル稼働すれば、1年間に約1000本のガラス固化体ができる。
 貯蔵施設の容量は現在2880本だが、来年2月にはさらに約5000本が保管できる施設が完成する。
 ガラス固化体は貯蔵施設内で30〜50年間、空気で冷却された後、最終的には地中深くに埋めることになっている。
 最終処分地の選定作業が難航するのは確実で、再処理路線そのものが疑問視される要因にもなっている。

◎使用済み核燃料/限界近づく、貯蔵プール

 全国の原発で燃焼後に取り出された使用済み核燃料の総量は、2011年3月末時点で約1万4000トン(ウラン重量)に上る。各原発の貯蔵プールと、青森県六ケ所村の再処理工場にあるプールに置かれている。
 長年の運転によって各原発のプールは満杯に近づき、隙間を狭めて貯蔵量を増やす「リラッキング」などで急場をしのいでいる。
 原発のプールがいっぱいになれば運び出すしかなくなるが、受け入れ先の再処理工場のプールも既に満杯に近い。
 仮に再処理工場が順調に稼働しても処理量は年間800トンで、現在ある使用済み核燃料を処理するだけでこれから22年かかる計算になる。
 新たな保管場所となるのが、むつ市に建設中の中間貯蔵施設。最長50年間、東京電力と日本原子力発電の使用済み核燃料計約5000トンを保管する。8月にまず、容量3000トンの建屋が完成する予定になっている。
 ただ、中間貯蔵施設の使用済み核燃料の先行きは不透明だ。六ケ所村の再処理工場の耐用年数を原発並みの40年とすると、50年後に運び込める保証はない。国は第2再処理工場の新設を構想しているが、実現のめどは立っていない。
 使用済み核燃料をどう処分するのかは、今後ますます厳しさを増す。

◎除染廃棄物/福島、最大3100万立方メートル

 福島第1原発事故でまき散らされた大量の放射性物質は東北、関東の広い範囲を汚染した。
 福島県内の除染では1500万〜3100万立方メートルの廃棄物が発生する見込み。焼却、減容化した上で、汚染度が高い廃棄物は中間貯蔵施設に、それ以外は既存の産業廃棄物最終処分場に運び込む。
 政府の計画では、2014年度中に中間貯蔵施設への搬入を予定しているが、立地場所の最終決定にはまだ時間がかかりそうだ。
 また、1キロ当たり8000ベクレルを超える指定廃棄物は、東北、関東など11都県で12万1180トン(3月末時点)に上る。高濃度に汚染された稲わらや放射性物質が集まりやすい浄水場の汚泥などが中心だ。
 東北では岩手県358トン、宮城県3252トン、山形県3トンとなっている。岩手、山形両県は既存の処分場に運び込む方向で環境省と協議を進めている。宮城県は国が最終処分場を設置する方針だが、予定地は決まっていない。
 福島県の指定廃棄物は9万9164トンと見込まれているが、これには原発事故で警戒区域などになった11市町村分は含まれていない。11市町村では1キロ当たり8000ベクレル超の廃棄物を含め、何らかの方法で処分が必要な廃棄物が約50万トンあると推定される。原発事故によって、とてつもない量の放射性廃棄物を抱え込むことになった。

◎廃炉廃棄物/福島3基、空前の規模

 今後、膨大な量の廃棄物を発生させるのが廃炉に伴う原発の解体作業。メルトダウン(炉心溶融)を起こした福島第1原発1〜3号機の廃炉作業は、他の原発とは比較にならないほど困難な道のりになる。
 廃炉作業はこれから30〜40年も続く。溶け落ちたウランがどんな状態にあるのか分からず、「廃棄物の総量はまだ見通せない」(東京電力)のが現状だ。
 廃炉に伴う廃棄物は金属やコンクリート、配管までさまざま。法律で具体的に最終処分方法を決めているわけでなく、「各事業者が検討中」(経済産業省資源エネルギー庁)の段階だという。
 国内の原発はこれから次々に原則40年の「寿命」に達し、巨大なプラントが丸ごと廃棄物になっていく時代を迎える。
 廃炉が決まった中部電力浜岡原発1、2号機(静岡県)で発生する廃棄物の総量は48万トンとみられる。そのうち放射性廃棄物は1万6600トン。
 解体作業中の日本原子力発電東海原発(茨城県)では6万8000トンの廃棄物が生じ、うち放射性は2万6900トンだという。
 両原発の廃棄物は低レベル放射性廃棄物になり、最終的には地中への埋設処分が検討される見通し。核燃料サイクル施設がある青森県六ケ所村に運ばれる可能性もある。

◎核燃料サイクル/行き詰まる高速増殖炉

 使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムの利用先としては、高速増殖炉と通常の原発の二つのサイクルが想定されている。
 本命視されてきたのは高速増殖炉。プルトニウムを含む核燃料に高速中性子を当てて核分裂反応を起こす。同時にウランを効率的にプルトニウムに変換し、消費した以上のプルトニウムを生み出す「夢の原子炉」と言われる。
 だが、原型炉もんじゅ(福井県)は試験運転を始めたばかりの1995年、冷却のために使う液体ナトリウムが漏れる重大事故を起こして停止。運転再開後の2010年には、原子炉に装置が落下する事故も起きた。
 昨年11月には1万点近くの機器の点検漏れが発覚し、原子力規制委員会は5月30日、事実上の運転禁止命令を出し、再開の見通しは立たない。高速増殖炉開発は完全に行き詰まっている。
 一方、通常の原発(軽水炉)でのサイクルは、プルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料を燃焼させる方法で、プルサーマル発電と呼ばれている。
 これまで国内の原発で実施したプルサーマル発電は、各電力会社がイギリスとフランスに再処理を委託して製造したMOX燃料を利用していた。


2013年06月02日日曜日

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