今回はいつもと違う雰囲気の作風になっていると思います。
ポケモンの2次創作に近いです。本当に2次創作に当たるのかどうかはよくわからないのですが…。ただ、アニメのポケモンを見ていて思いついた作品ではあります。
vol.16-diary11 恋はファンタジー
その日、期末レポートを全て書き終えた明奈は、DSを開いた。
プレイするのは大好きなポケモンだ。
久しぶりにじっくりプレイできそうだと明奈はワクワクしていた。
電源を入れ、野生のポケモンをひたすら倒し、一番のパートナーであるピカチュウを育てる。
―あと3体野生のポケモンを倒したらジムリーダーに挑戦しよう。
そう考えていると、すぐに野生のポケモンに遭遇した。…と同時に突然DSから強い光が差した。
「いやっ!」
光が強すぎて目を開けられない…。しかも意識が遠のいてゆく…。
* * *
明奈が目を覚ましたとき、そこは道路の上だった。道路と言っても、アスファルトではなく土のままであるし、周りは木と草むらばかりだ。
―ここはどこ?
立ち上がってみたが、どうも目線の高さがおかしい。明奈は視線を下に移す。
「あっ…!!」
黄色い身体…短い足…生え際だけ茶色くなっているギザギザのしっぽ…。これって…もしかして…
―どういうこと!?
明奈は驚くしかなかった。
近くの水たまりに顔を映してみる。
それはピカチュウ以外の何物でもなかった。
―そんな…どうなってるの!?
その時、明奈…いや、ピカチュウの後ろをコラッタの群れが通り過ぎる。まもなくポッポの大群も上空を去って行った。
―私は、もしかしてポケモンの世界に来てしまったの? 家族は…? 友達は…? 翔は…?
ピカチュウはどうしたらいいか分からずトボトボと歩き始めた。
その時、目の前に人間を見つけた。それは、一番の親友、沙枝であった。
―沙枝だ! 沙枝はポケモンにならなかったんだね…。でも、あれは…?
沙枝はひどく困った表情をしていた。なぜなら沙枝のことをイシツブテが追いかけまわしているからだ。
ピカチュウはその光景に近づいてみる。よく見ると、イシツブテは必死に紗枝に何かを伝えようとしている。
「ワシャ、ワシャ! ワシャ、ワシャ!」
「もーう、何なのよー!! このイシツブテ~!」
そう言って、沙枝はピカチュウに気づくことなくイシツブテから逃げるようにその場を去ってしまった。
イシツブテも一度はピカチュウに気がついたものの特に気にする風でもなくその場から去ってしまった。
―私はこれからどうすればいいの? お腹もすいてきちゃったし…
そう思っていると、後ろから突然人間に抱きかかえられた。
その人間の顔を見てみると…なんと翔だった!!
ピカチュウは必死に自分のことを伝えようとする。
「ピカピカー!! ピカピ! ピカチュウ!!(私、明奈だよ! 翔! 気づいて!)」
「よしよし。お腹がすいてるんだね。」
そう言って翔は優しくピカチュウをなでてあげた。
ポケモンの言葉しかしゃべれなくなってしまった今、翔に意志を伝えるのは難しそうであった。
翔はピカチュウを抱え、洞窟の中へと入っていった。
―翔、私だって気付いてくれない…。そりゃそうだよね…。でも、翔ってやっぱり優しいな…。
翔の胸の中は温かく、体を撫でる手は優しい。そして、いつものように柔らかく微笑みかけてくれる。
洞窟の中ではたき火がされており、翔はその近くにピカチュウを下ろし自分も座った。
そして、リュックからリンゴを取り出しピカチュウに手渡す。
「さあ、これを食べて。足りなかったらもう一個あるからね。」
「ピカピ! (ありがとう!)」
お腹のすいていたピカチュウはすぐにそれにかじりついた。甘くておいしい。
「ピカピカ!(おいしいよ!)」
「おいしいんだね。それは良かった。君はどうしてあんなところにいたの?」
翔に事情を聞かれたが、どう説明して良いのか分からない。
「ピカ、ピカピ…、チュウ、チュウ…(良く分からないけど、気が付いたらここにいたの。どうしたらいいか分からないよ。)」
「…そっか。困ってるのは分かったけど…。僕もね、自分が何でここにいるのかよくわからないんだ。だからね、とりあえず安全そうな場所を見つけた。1人だと心細いから何かわかるまで僕と一緒にいてくれないかな?」
「ピカー!(もちろん!)」
明奈はホッとした。とりあえず正体は分かってもらえないが翔と一緒にいられる。
「ピカチュウ、この辺に何があるかちょっと探検してみようか」
翔とピカチュウは洞窟の外へと出かけて行った。
その夜…
再び洞窟に戻ってきた翔とピカチュウ。
ピカチュウは洞窟の入り口から空にある満月を眺め、考え事をしていた。
―私も、翔も、沙枝もみんなポケモンの世界に来た。それにしても、どうして私だけピカチュウに …あっ!
―あのイシツブテはもしかして…翼君?
図星だった。あのイシツブテは「沙枝ちゃん! 俺だよ! 翼だよ! 気づいて~!!」とアピールしていたのだ。あまりにもまとわりつき過ぎたので嫌われてしまったが…。
ふと振りかえって、両手のひらを広げてたき火で暖をとっている翔を見つめる。最初に翔に拾われて、抱きかかえられた時、とてもドキドキした。温かくて優しくて、そして翔の鼓動が聞こえた…。
―このままピカチュウでいるのも悪くないかも… そうだ!翔は私の正体ををわかってないんだ。
―だったら、思いっきり甘えちゃおう♪
ピカチュウは翔のもとへと近づいた。
「あっ、ピカチュウ。寒いからこっちにおいで。」
「ピカチュウ~。」
ピカチュウは翔の隣にくっつく。
「夜はたき火だけじゃ寒いかな。」
翔はそう言って、ピカチュウを抱きかかえ、自分のジャケットと胸の間にピカチュウを収めた。ジャケットの上から手を添え、ピカチュウを固定する。
「この方が暖かいかな。」
「ピカピ~(あったかい…)」
―っていうか、すごくドキドキする…
ピカチュウは、翔の胸に右頬をすりよせて甘えるしぐさを見せた。
「あっ、よしよし…」
翔が微笑んで、ピカチュウの左頬を撫でる。
翔にかわいがられているピカチュウ…いや、明奈は幸せ気分だった。
翔がふっと撫でている手を止めて、ピカチュウに自分の方を向かせじっと見つめた。
優しい瞳が自分のことをしっかりと見てくれる。
「ピッピカチュウ!(翔、大好き!)」
明奈は嬉しくなって、翔の唇にそっと口づけた。
翔の頬が赤く染まる。明奈の顔も赤く染まる。
「ありがとう。ピカチュウ。…ううん、君は明奈だね。」
そう言って、翔が笑顔を浮かべた。反対に、明奈の思考は停止する。
―えっ…!? どうして…!?
放心状態のピカチュウの左頬と鼻の間の部分に、翔がちょん、と指を当てた。…そこにある小さなホクロが、ピカチュウが明奈であることを示していた。
その時、ピカチュウの目の前に強い光が差した。
* * *
明奈は目を覚ました。
周りの景色は自分の部屋、目の前には電池切れとなったDSがあった。
「…夢?」
連日のテストとレポートの対策で疲れがたまっており、気が付いたら寝てしまっていたらしい。
携帯を見ると、翔からの着信があった。
次の日…
「翔ごめんね、昨日の電話気がつかなかったよ。」
「ううん、お風呂にでも入ってた?」
「あのね…」
明奈は昨日の夢を思い出し気恥ずかしくなる。
「…い、言えない。」
「えっ、言えないようなことしてたの?」
翔が不思議そうに尋ね、明奈は焦る。
「違う違う違う! 寝てたの! めっちゃ普通に寝てた!」
「そっかー。テストとレポート大変だったもんね。でも、これから休みに入るからゆっくりできるよ。」
「…うん。」
あんな夢…もう見たくないような、また見たいような…複雑な気分の明奈だった。
お読みいただいた方、ありがとうございます。
これからは、この『ふわふわ日記』と並行して、明奈ちゃんと翔君が大学を卒業して、社会人になった後のお話を書き始めようかななんて思っています。あくまで予定ですが…。
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