保護入院の闇(1) 精神疾患ないのに拉致・拘束!?

 外資系証券会社などで働いてきた20歳代後半の男性が、ある日突然、精神科病院に入院させられた。手足を拘束されて薬を多量に投与され、ECT(いわゆる電気ショック)を何度もかけられ……。この強制的な入院の前後に、彼を診察した複数の医師は証言する。「彼に精神疾患はない」。

 こんなフィクションのような出来事が現代の日本で起こったことを、あなたは信じられるだろうか。


 2009年2月、関東地方に住むタカオさん(仮名)は体調がすぐれなかった。鼻の奥が化膿する病気を長く患い、その影響からくる頭痛やめまいのために実家で横になっていた。すると母親が救急車を呼び、タカオさんにこう告げた。

「病院に連れて行ってあげる」

 ところが、着いたのは耳鼻科ではなく、精神科病院「D病院」だった。消防署の救急出場記録によると、母親が事前にこう要請していたのだ。

「息子に、精神的な面からめまいや身体の痛みが出ている。D病院に相談したら、とりあえず受診させて欲しいと言われたので、連れて行きたい」

 確かに母親は、この日の午前中、タカオさんに内緒でD病院を訪ねていた。

「息子の暴言や暴力が一年前から激しくなりました。『テメーのせいでこうなった!』などと私や父親に暴力を振るい、パトカーを呼んだこともある。以前はとても優しい子だったのに…」

 聞き取りをした病院関係者は、母親の訴えをそのまま受け取り、タカオさんの名で作った相談表の最後にこう記した。

「お迎え入院を検討」

◇        ◇

 「息子(タカオさん)に暴行された」という母親の110番通報で、パトカーが何度も出動したのは事実だ。だが、母親は駆けつけた警察官に、タカオさんからどんな暴行を受けたのか詳細に語れなかったという。

 当時の状況をよく知る警察官は「暴行を受けたのならば、医師の診断書をもらってくるように刑事課が勧めたこともある。しかし、一向に受診しなかった」と語る。

 通報騒ぎの発端は、2007年にさかのぼる。タカオさんは、「母親が昔からひいきにしていた」という兄から暴行を受け、刑事告訴した。母親は、告訴の取り消しを求めたが、タカオさんの意思は固かった。

 そして、母親の110番通報が始まった。通報があまりにも頻繁で、なおかつ被害が認められなかったため、警察はまともに取り合わなくなった。すると母親は、今度は保健センターに「悩み」を訴え始めた。


 統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。

 「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。
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2011年12月8日 読売新聞)

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