保護入院の闇(3) なぜ薬物中毒?

 タカオさんの入院は約3週間に及んだ。

 当初は、精神科病院に突然連れてこられたショックで大声を上げるなどしたが、すぐに気持ちを切り替えた。

「暴れれば暴れるほど、深刻な病気にされてしまう。このままだと殺されかねない。何をされても無抵抗でいよう」

 身体拘束の状態を確認するため、定期的にやって来る看護師を冗談で笑わせた。繰り返される電気ショックにも素直に従った。その結果、母親が同意した医療保護入院から、本人の同意で行う任意入院への切り替えが行われ、退院につながった。

 1年後(2010年)、タカオさんは元センター長の勧めで精神科クリニックを受診した。本当に統合失調症なのか、診断してもらうためだ。結果は「統合失調症ではない」

 被害妄想や幻聴に悩まされる統合失調症は、適切な治療で安定した状態を長く保てる。だが、完治する病気ではない。今年(2011年)6月には、別の精神科クリニックで、のべ4日間、計7時間半に及ぶ検査を受けた。結果は「正常」だった。

 さらに、発達障害の検査も受けた。良好な対人関係を築きにくいアスペルガー症候群などがあると、その二次障害によって統合失調症と誤診されるケースが目立つ(過去の医療ルネサンスで取り上げたが、このコラムでも後日詳しく書く)ためで、大学病院の専門医が、丸1日かけて生育歴などを丹念に聞き取った。そして、発達障害も否定された。

 この事件はなぜ起こったのか。母親の不可解な行動に目が向きがちだが、母親は本気で息子の精神疾患を疑い、善意で入院の相談をした可能性もある。これがもし、誤診に基づく医療保護入院であるとすれば、対応した精神科医とD病院の診療レベルを疑わなければならないだろう。

 D病院が、知事に提出した医療保護入院の入院届けなどには、統合失調症以外の傷病名も登場する。「薬物中毒精神病」だ。

 タカオさんは、非合法の薬物を乱用したことはない。酒もほとんど飲まない。ただ、鼻の病気にともなう頭痛などのため、耳鼻科で鎮痛剤ボルタレンを頓服薬として処方されていた。D病院の精神科医はこの情報を母親らから聞き取り、ボルタレンなどの過剰摂取でせん妄や興奮、滅裂などが強まったと判断したようだ。

 だが、タカオさんはボルタレンを常用しておらず、入院した日も服用していなかった。当時、ボルタレンを処方していた耳鼻科の主治医は話す。

「処方した量のボルタレンでひどい精神症状が現れるとは、常識的には考えられない」


 統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。

 「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。
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2011年12月21日 読売新聞)

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