おかしな医師たち(1) 夫の顔でPTSD!

 取材で精神科医に会う度、決まってする質問がある。「診断や投薬、言動などに問題のある精神科医は何割いると思いますか?」

 「いない」「ほとんどいない」といった言葉は聞いたことがない。精神科関連学会などでは、不適切な治療が話題になる時、「悪いのは一部の医師」という言葉が飛び交うのだが、精神科医に面と向かってたずねると、苦々しげに、あるいは諦めたような顔でこう語るのだ。

「言動がおかしな人を含めたら半分」「10人に1人は病気としか思えないようなむちゃくちゃな投薬をする」「精神疾患が疑われる精神科医は相当いる」「8割は使い物にならない」

 さすがに「8割」や「半分」は言い過ぎだと思いたい。良心的で技術が高く、尊敬できる精神科医を私は多く知っている。だが、決して少なくない割合で、極めて不適切な言動や、病的な投薬を繰り返す医師がいることもまた事実なのだ。

 最初は模範的な診療をしていたのに、打ち込み過ぎて燃え尽き、病的になった医師もいるようだ。「精神科医の多くが、薬を出さなければいられない強迫性障害に陥っている」と指摘する精神科病院の院長もいる。

 これが外科医であれば、突出した手術の腕さえ持っていれば、言動が多少おかしくても許される場合はあるだろう。現に、テレビでおなじみの「ゴッドハンド」たちは、個性的な人が多い。だが、こころを扱う精神科医が人の気持ちをくみ取れなければ、患者との治療関係は成り立たない。自ら精神疾患を患ったとしても、それを患者理解につなげて診療レベルを上げてくれればいいが、必ずしもそうはならないようだ。

 理解しがたい診断の一例を紹介しよう。20歳代の娘を自殺で亡くした東北地方の夫婦のケースだ。母親はショックのあまりふさぎ込み、精神科で抗うつ薬などの薬物治療を受けた。だが、2年たっても回復せず、逆に感情の起伏が激しくなるばかりだった。主治医は業を煮やしたのか、血迷ったのか、母親に突然こう告げた。

「よくならないのは、ご主人の顔が悪いからです」

 開いた口がふさがらないが、主治医の言い分はこうだ。父親と娘は顔が似ているため、母親は娘の死後も、父親を見るたびに娘を思い出し、やがてPTSDに陥ってしまった…。

 こんな人物が、どうして精神科医になれたのだろう。PTSDは、心的外傷後ストレス障害の略。交通事故や戦争などの生死に関わる恐怖体験をきっかけに、恐怖場面が突然脳裏によみがえるフラッシュバックなどに繰り返し悩まされ、社会生活に支障をきたす状態だ。しかし、母親はフラッシュバックに悩まされてはいなかった。

 仮に、父親の顔が娘に似ていたとしても、なぜそれが死ぬほどの恐怖なのか。この主治医の説を認めると、子どもを亡くした遺族は、子どもの写真をすべて処分しないとPTSDに陥ることになってしまう。

 せめて「ご主人の顔が、あなたが幼い頃に死ぬほど怖がっていた怪獣に似ているため、PTSDになった」とでも言い張るべきだった。そんな怖い顔の男性とは、そもそも結婚しないだろうが。

 投薬するしか能がないタイプの精神科医は、薬で回復しない患者に対して、途端に無力になる。根拠のない多剤大量投薬を始めたり、苦し紛れに意味不明な自説を展開し、患者と家族、さらには自分自身も煙に巻いて、強引なオチを付けたりする。突飛な自説が患者や家族をさらに傷つける、ということには思い至らぬまま。

 幸い、知人の忠告で母親は医療機関を変え、心理療法などで症状は安定したが、この主治医の言葉を信じて通い続けていたら、夫婦は離婚し、家庭は完全に崩壊していたかもしれない。

 ちなみに、夫婦の知人はこう証言する。

「娘さんは母親似でした」


 統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。

 「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。
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2012年3月21日 読売新聞)

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