学校と精神科(1) 養護教諭の自責
教育現場でも、精神科とのかかわり方を問い直す動きが出始めている。学校から精神科につながった子どもたちが、突然死するケースなどが出ているためだ。
ある子どもは、落ち着きのなさなどから、スクールカウンセラーを経て精神科を受診した。服薬を始めるとひどく暴れるようになり、さらに薬が増え、心停止で死亡した。また別の子どもは、なんの予兆もなく自殺した。
この子らの死と、精神科治療との因果関係は不明だが、受診にかかわった養護教諭は自責の念を募らせている。死にまでは至らなくても、精神科受診を境に、子どもの状態が悪化するケースは少なくない。
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京都大学大学院医学研究科准教授の木原雅子さんは、毎年講師を務める養護教諭の研修会で呼びかけている。
「子どもを精神科につなげて、それで終わりにしないでください。精神科でよくなる子もいれば、変わらなかったり、調子が悪くなったりする子もいる。いろんなケースがあるので手を離さず、おかしいと思ったら、必ず別の医療機関でセカンドオピニオンを受けるよう促してください」
だが、これを実践するのは容易ではない。子どもをきちんと診られる精神科医は非常に少なく、評判のいい医療機関は数か月待ちの状態が続く。簡単には受診できないのだ。また地方では、子どもに対応してくれる医療機関がほかにないケースもある。
「おかしいと思っても、医師に意見を言ったら二度と診てもらえなくなることもある。学校の立場は弱く、専門家ではない私たちが投薬に口を挟むこともできない」と明かす養護教諭もいる。
「現状では、セカンドオピニオンは絵に描いた餅と言われても仕方がない。この状況をなんとか変えたい」。木原さんが強く思うのには理由がある。他県の施設でがん研究に打ち込んでいたころ、家によく遊びに来ていた当時小学生のアイコさん(仮名)が、精神科での長期治療を経て重い障害を負った苦い経験があるのだ。
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統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。 「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。 |
(2012年5月16日 読売新聞)
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