学校と精神科(2) 長期入院の果てに

 アイコさんは、小学校高学年のころから学校を休みがちになった。家庭で父親の浮気が発覚し、もめ始めたことが影響したようだった。

 中学に入学して間もなく、アイコさんは汚れてもいないのに手を洗い続ける強迫性障害に陥った。頭に焼き付いた「父親は汚い」というイメージが、アイコさんを蝕んだ。

 それでも、木原さんの家にはよく遊びに来て、勉強を教えたこともあった。「私、バカだから」がアイコさんの口癖だったが、成績が悪いのは学校を休んでいたためだった。「将来は女優になれるくらい、かわいい顔をした子。勉強もやればできる子だった」と木原さんは振り返る。

 強迫性障害は、精神科に通院するうちに軽くなったが、男性不信の矛先は幼い弟に向かった。暴力を振るい、精神科病院に緊急入院となった。

 間もなく両親は離婚した。精神科医は、アイコさんの精神的混乱の原因は母親にあると指摘し、追い詰められた母親は自殺未遂をした。アイコさんは祖母の家に身を寄せたが、精神的不調は続き、入退院を繰り返した。その度に、状態は悪化した。

 アイコさんは入院中、木原さんの家に度々電話をかけてきた。「おばちゃん、今日はね……」。10円玉がなくなるまで、その日感じたことなどを話し続けた。同年代の女の子たちと、なんら変わりはなかった。

 その会話が、入院が長引くにつれて聞き取りづらくなった。多量の薬の影響なのか、ろれつが回らないのだ。それでも、木原さんは慎重に聞き取って対応した。

「今度、おばちゃんのうちに遊びに来てね」

「うん、行きたい。でも、ずっと外出許可が出ないから」

 さらに日が経つと、話の内容が支離滅裂になり、分からなくなった。「これはおかしい。病気というより、治療の影響もあるのではないか」。木原さんは感じたが、アイコさんが入院していたのは、全国的に知られた児童精神科病院だった。

「親ではなく、精神科医でもない私が口を挟むのははばかられた。専門医に任せていれば、いつかよくなるのではないかと思い込んでしまった……」

 アイコさんの現状をここで詳しく書くことはできないが、長期服薬の影響が考えられる体の障害と、学習機会を十分持てなかったための低学力が、大人になった彼女の自立を阻んでいる。


 統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。

 「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。
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2012年5月22日 読売新聞)

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