言葉を奪われた青年(4) 身の毛よだつ投薬
言葉を話せなくなったタクヤさんの状態は退院後も好転せず、体全体が硬直したように動かなくなる場面が増えた。テレビを見て度を超えた大笑い(笑う時は「ハハハハ」と声が出る)をすることもあるが、急に落ち込んで無反応になるなど、感情の波がますます激しくなった。姉が一時帰国した時は、姉の言う通りにトイレに行ったり、手を洗ったりしたが、姉がいなくなるとまた元に戻った。
2012年夏、大学病院に再入院した。主治医と共にタクヤさんを診ることになった精神科教授は「統合失調症なのか発達障害なのか、判断がたいへん難しいケースだが、薬は可能な限り少なくしていきたい」と話す。同病院では、抗精神病薬のエビリファイとリスパダール、抗うつ薬のパキシルなどを使ってきたが、11月に入り、リスパダールの減薬を始めている。
長年にわたり相当量の薬が投与され続けたため、減薬中に症状が強まる恐れもあるが、単純に「症状悪化」と決めつけず、薬をうまく使い分けながら慎重に判断する必要がある。減薬が順調に進み、状態が安定すれば「言葉が戻る可能性はある」と精神科教授はみる。
タクヤさんは一体何病なのか。専門家でも意見が分かれるだろうが、重症に至った原因を「病気の進行」だけで片づけてはならない。ここまで悪くなったのは、不適切な治療が原因ではないか。そうした検証が欠かせない。
タクヤさんが最初の精神科病院を退院し、外来通院していた16歳の時の処方を以下に記してみよう。
毎食後 朝・夕食後 夕食後 寝る前 毎食前 |
あまりの量に言葉を失うが、これでも入院中よりは減ったのだという。1種類の使用が原則の抗精神病薬が5種類、依存性のあるベンゾ系薬剤が3種類、そして薬の副作用として現れるパーキンソン症状を抑える薬が3種類……。これは患者を治すためではなく、潰すための投薬ではないのか。日本の精神医療の異常さに、身の毛がよだつ。
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統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。 「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。 |
(2012年11月20日 読売新聞)
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