「精神科面接を問う」に反響続々  どこに行くかで天と地

 朝刊連載「医療ルネサンス」の9月の特集「精神科面接を問う」には、非常に多くの反響が寄せられた。このコーナーで募集した「精神科医の暴言」も多く集まり、詳しく取材して特集に生かすことができた。読者のみなさんのご協力に感謝します。こうした新聞とネットの連動企画を今後も行いたい。

 大きな批判を浴びている精神科の薬至上主義の背景には、精神科面接の稚拙さがある。「面接に自信があれば、すぐに薬を出さなくても済むんだけどね」とぼやく精神科開業医や、「患者の話が長引きそうな時、診察のオチをつけるために『それじゃあ薬出しておきます』と言ってしまう」と苦笑する精神科教授もいる。

 心がまいっている患者に、見下した言葉や暴言を浴びせる精神科医も少なくない。体験談の一部を紹介してみよう。

 「具合が悪かった時、主治医に状態を詳しく伝えたところ、返事の代わりに『あなたは今日、どれだけ外来が混み合っているか考えたことがありますか?あなたのくだらない話を聞いて、もうすでに15分も経過してしまった!』と いきなり怒られました。主治医は黙って話を聞いていたので、それほどご立腹だとは分かりませんでした。ショックで、もうこのクリニックには行けなくなってしまいました」

 「落ち込んだ時に受診したら、私の話などほとんど聞かずに『一生治らないから薬をずっと飲み続けるんだよ』と強く言われた。それ以来、精神科には行かず、薬も飲んでいないのに今はすっかりよくなった」

 「摂食障害とうつ病がカウンセリングで良くなり、薬を飲まなくても大丈夫だったのに、主治医が変わると急にこう言われました。『僕の出した薬を飲まないのなら、もう診ないよ。今日のカウンセリングは受けられない。カウンセリングのオーダーを出すのは僕だからね。薬をつべこべ言わず飲んで!』。この病院の医療相談室に駆け込み、改めて別の医師に相談してカウンセリングを受けましたが、私のように声を上げた人は少なくて、不要な薬がどんどん処方されてしまう人が多いと思います」

 精神科医から心ない言葉を何度も浴びせられたことがある千葉県の女性患者は、手紙にこう記した。「精神疾患を患うと、医師からも人間として対等に扱ってもらえなくなるのです」。

 精神科医が患者に厳しく接することが、すべて悪いわけではない。治療の効果を考えて、あえてそうする場合もある。短期には回復しにくい精神疾患の場合、薬を飲み続ける重要性を患者にしっかり伝えなければならない。だが、どんなに必要な対応でも、伝え方が横柄だと患者には害にしかならない。過剰な薬物投与だけでなく、乱暴な面接によっても医原病が進行する。

 暴言例をもう一つ紹介しよう。特集の1回目で取り上げた40歳代の女性は、対人関係がうまくいかないため自分を発達障害と疑い、抑うつ傾向もあって精神科医院を受診した。すると、男性の院長にこんなことまで言われたという。「どうせ2ちゃんねるとか、インターネットのいいかげんな情報ばかり見てるんだろ。あんたは病気じゃない。女は生物学的に劣っていて、頭が悪くてかわいそうだ」

 仮に院長の見立て通り、この女性は病気でなかったとしても、頼って行った医療機関で、院長から鋼鉄の拳のごとき暴言の連打を浴びせられたら、患者は本当の病気になりかねない。実際、女性は抑うつや不眠がひどくなり、別の医療機関で中等度のうつ病と診断された。

 この院長は、女性関係に恵まれない人生を送ってきたのかもしれないが、患者は私恨を晴らすサンドバッグではない。

 精神科には、対応が難しい患者が集まりがちなのは事実だ。それなのに面接時間は十分とれない。多くの精神科医は日々、厳しい環境に置かれている。それでも、限られた時間の中で、精神療法の技術を駆使して患者と向きあう精神科医もいる。その一方で、患者の顔も見ずに処方だけして「1丁あがり!」の精神科医もいる。どちらに行くかで、病気の予後が天と地ほども変わるとすれば、それは現代医療とはいえない。

 女性読者のメールを紹介してみよう。精神科は、施設の見栄えを良くするだけではダメだということがよく分かる。


 20代前半の時、ノイローゼのような不安感に陥り、精神科に2か所行きました。

 1か所目は学校で紹介してもらった所で、雑居ビルにある本当に小さくて狭い、粗末な感じの精神科でした。でも先生はすごく丁寧に話を聞いてくれ、それだけで安心した記憶があります。別の日に予約を取る際に、予約はいっぱいですと言われたのですが、きちんと「緊急ですか」などと聞いていただけました。自殺寸前のせっぱ詰まっている患者もいると思うので、有り難い対応だと今では思います。

 引越し後に行くようになった2か所目はネットで探した所でした。駅ビル内にあるキレイな場所で看護師さんも数名おり、カウンセラーもいました。診察室はまるで豪華な書斎の様で、間接照明におしゃれなインテリアでした。でも、医者の発言は横柄で最低最悪でした。「私の言う事をちゃんと聞いてれば治るから」とか、今の精神状態で働けるかどうか不安で一杯だった私が、「こういう状態でも働けますか」と聞くと、馬鹿にしたようにプッと笑って「さあ?あなたが働けるかどうかは分かりませんけど」などと言われ、ものすごく傷つきました。

 診察の後、カウンセリング室でカウンセラーと対話もしましたが、単なる世間話のようでよく分からず。ホームページでは癒しの空間といった感じで当時は好感が持てたのですが、結果、帰りに診察券を破り捨てるくらい嫌な気持ちにさせられました。

 この時の経験がトラウマになっており、今でも心がひどく滅入り、自殺念慮が出てきた時でもなかなか精神科に行く事ができません。馬鹿にされ、鼻で笑われるかもしれないと思ってしまうのです。

 1つ目のように良い先生に当たれば、話を親身に聞いてもらうだけでも随分気持ちが軽くなるものです。ホームページもなく、本当に地味な所でしたが見栄えに誤魔化されてはいけないなと思いました。自殺者3万人の時代、まともな精神科医が増えてほしいものです。





 統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。

 「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。
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2012年10月1日 読売新聞)

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