抗不安・睡眠薬依存(11) 市販薬乱用しデパス食べる

 薬局で簡単に手に入る鎮痛剤やせき止め、風邪薬などの服用をきっかけに、市販薬や処方薬の薬物依存に陥る人もいる。

 北関東の30歳代の女性は、2人目の子どもの出産後から激しい頭痛に悩まされ、約10年前、薬局で鎮痛剤のナロンエースを購入した。服用量は当初、きちんと守っていたが、次第に増えていった。

 「ちょうど身内の人間関係などがゴタゴタした時期で、飲むとポワンとなり、効いている間だけは周囲の目や嫌なことを気にせずにいられました。頭痛を抑えるというよりも、無感情な感覚を求めて、用法や用量を無視して頻繁に飲むようになってしまった」

 市販薬で、だれもがこの女性のようになるわけではない。だが体質によっては、こうした過敏な反応が表れることがあるという。使用を短期間にとどめれば問題はないが、ストレスから目をそらす目的などで使い続けると乱用につながる恐れがある。

 女性は多い時、ナロンエースを1日80錠飲んだ。当時はインターネットの通信販売で、薬のまとめ買いが容易に出来た。それでも足らなくなると、薬局を何軒も回って購入した。薬代は月2万円を超えた。

 服用開始から2年ほどたった頃、不眠症状が強まり、受診した内科医院でデパス(チエノジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬)が処方された。最初は寝る前の1錠だけだったが、すぐに歯止めがきかなくなった。「デパスも、飲むと夢見心地で悩みを忘れられた。効果が切れるとますますつらくなるため、すぐに飲みたくなる。デパスを集めるため、あちこちの医院を駆けずり回った」。ある精神科医院では、デパスに加えSSRIのジェイゾロフトなども処方された。

 「デパスは多い日は30~40錠使いました。甘いのでラムネ菓子のようにポリポリ食べた。私の場合、デパスを大量服用すると意欲が沸いて、いろいろなことができるような気になった。ナロンエースや他の処方薬も、1日計20~30錠飲んでいた」

 やがて薬の影響で気を失い、倒れた。2008年秋から、赤城高原ホスピタルに7か月入院した。この間、大量のデパスなどの代わりに、抗ヒスタミン薬のヒベルナや抗精神病薬のコントミン、レボトミンなどを一時的に使い減薬に成功した。だが退院後、またナロンエースを飲んで再入院。以後も入退院を繰り返し、今は5回目の入院生活を続けている。

 「入院中は、目を背けたい現実を直視せずに済むので、薬を飲まずにいられる。でも退院すると、仕事などのストレスに耐えかねて薬を口にしてしまう。薬に依存する生活を長く続けたことで、ストレスへの抵抗力が非常に弱くなった気がする。今度こそ、病院にいる間にストレス対処法をしっかり身につけて、必ず薬をやめたい」



 統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。

 「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。
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2012年9月18日 読売新聞)

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