抗不安・睡眠薬依存(9) うつ病学会も漫然処方批判

 アシュトンマニュアル日本語版は、公開から1週間でダウンロード数が9703件にのぼったという。患者が訴えるベンゾジアゼピン系薬剤の常用量依存や離脱症状について、否定、あるいは見て見ぬふりをし続けたガラパゴス系医師たちは、今後、どのように責任をとるのだろうか。

 7月下旬にインターネットで公開された日本うつ病学会の「大うつ病治療ガイドライン」でも、ベンゾジアゼピンの漫然投与を戒める記述が何か所も盛り込まれた。国内の状況は、それほど深刻ということだ。いくつか抜き出してみよう。


 「近年、乱用や転売の目的で、抗不安薬・睡眠薬の入手を企てて医療機関を『受診』するケースが社会問題になっている。この点からも、BZD(ベンゾジアゼピン)系薬・バルビツール系製剤(合剤であるベゲタミンを含む)の大量処方、漫然処方は避けるべきである」


 「ベンゾジアゼピン系抗不安薬の抗うつ薬への併用が、治療初期には抗うつ薬単独よりも治療効果が高いことが示されており、選択肢となりうる。しかし、脱抑制、興奮といった奇異反応の出現に十分注意すべきであるほか、乱用や依存形成に注意し、安易な長期処方は避けることが望ましい」


 「不適切なBZDが漫然と投与継続された結果、過鎮静、意識障害、脱抑制による衝動性の亢進などがおこり、一見うつ病の症状が遷延ないし悪化したように見えることがある。また筋弛緩作用や呼吸抑制、常用量依存に注意する」


 このガイドラインでは、投与期間の制限についてはふれていないが、中等症・重症うつ病の章にこんな一文がある。「抗うつ薬とBZDの併用は治療初期4週までは脱落率を低下させるなど有用性がある」。一見、ベンゾの使用を推奨しているかのようだが、執筆者の一人はこう明かす。「4週までは有用性があるというのは、それ以上は有用性がないということ。そう読んで欲しい」。

 うつ病治療だけを扱った学会初のガイドラインで、ベンゾの投与期間制限にまで踏み込むことは難しかったのかもしれない。だが今後の改訂版では、投与期間の目安をもっとはっきりと記す必要があるだろう。

 同学会理事長の神庭重信さん(九州大教授)は語る。「ベンゾジアゼピンの国内の使用状況は明らかに過剰。来年公開予定の改訂版では、睡眠薬の使い方について踏み込んだ記述をしたい」

 こうしたガイドラインを良くしていくためには、被害報告など、患者からの継続的な働きかけが欠かせない。



 統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。

 「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。
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2012年9月5日 読売新聞)

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