ヘイトの現場から:/上 「はまる体験」デモに老若男女 ネット信じ「嫌韓」
毎日新聞 2013年06月25日 大阪夕刊
「『殺せ朝鮮人』のシュプレヒコールは当然です」「朝鮮人は同じ生き物ではありません」
ゴールデンウイーク初日の4月27日の昼下がり、大阪・梅田の百貨店前で、日の丸を掲げた10人ほどの一団が、ハンドマイクを代わる代わる握った。「在日特権を許さない市民の会(在特会)」が呼びかけた街頭宣伝。内容は、いま批判が集まるヘイトスピーチ(憎悪発言)だった。
その夜、大阪市内で「素晴らしき愛国者」と銘打った別団体主催の講演会が開かれた。会場には百貨店前でスピーチしていた人たちの姿もあった。約30人の参加者の年齢層は街宣と同様に学生から高齢者までと幅広く、その3分の1は女性だった。
メイン講師は2009年の京都朝鮮第一初級学校授業妨害事件で有罪判決を受けた西村斉(ひとし)・元在特会関西支部幹部(44)。「結果よりも行動することが大事。『反日』に対して口で言って何が悪い」などと語り、参加者からは抗議方法などについての質問が相次いだ。熱心に講演を聴いていた大阪府在住の事務員の女性(27)は、たまたま見たインターネットの「韓流」批判サイトが活動を始めるきっかけだった。「韓国が日本のテレビ局にお金をばらまき、韓流をごり押ししている」とサイトにはあったという。類似のサイトを見て学んだという女性は「韓国は日本に併合されて同じ国だったのに、反日活動をしている」と憤った。
教科書で習う歴史認識より、「嫌韓」サイトなどで展開される、特異な歴史認識と、事実とは言えない話を信じているようだった。
同じ講演会に参加していた会社員の男性(26)も「マスコミの流す情報は、信用できない。自分が話すことはインターネットが情報源だ」と語った。
事務員女性は今年3月、ネットで知ったデモに初めて参加した。周囲の参加者の印象は「見た目も含めて、普通の社会人として生活している人たち」。入った団体は4月にメンバーが逮捕されて解散したが、「いままで情熱を燃やす経験がなかった。はまる体験は今回が初めて」と語り、活動をやめる気はないという。批判についても、「日本という国がないがしろにされている状況を何とかしたいので、後ろめたい気持ちはない」と話す。