李首相が直面している中国経済の状況は、温家宝時代とは相当違う。経済は高度成長から中成長へスピードダウンし、対外貿易、国内の設備投資もかなり低減している。無理をしてでも対外貿易を増やし、国内の設備投資を促進させ、高度成長を求めていくという経済政策を、李首相は取っていない。ある程度の中速度の経済成長を実現して、安定成長を何よりも重要視している。湯水のようにカネを外に貸している銀行に対して、「金融、財政、投融資の改革を進め、改革を深く力強く推し進めていく」と、李首相は繰り返して言ってきた。
リノミクスの効果は、これから出てくるが、今現在、金融に限って言えることは中国の変革であり、いままで通用したやり方は、李克強時代にはそのまま通用しなくなった、ということだ。
M2が15.8%増
資金不足が蔓延
金融改革=これ以上の金融緩和、資金の放出はしないという中央からの警告を、当初、多くの金融企業は重要視しなかった。
麻薬を打ち続ける人が、これからはそれがなくなるとは想像できないのと同様、中国経済をショック療法で治すことなど信じられなかったのだ。
中央銀行の中国人民銀行が6月10日ごろ公表したデータでは、5月のM2(広い意味での貨幣供給量)は、昨年比で15.8%増であり、人民元預金の残高がいよいよ100兆元(約1600兆円)に迫り、日本の預金残高をも超えていく。この預金は、中央銀行から見れば檻に入った「トラ」であり、市場に出たらどんな対処をしたいいのか、途方にくれている。
一方、銀行などによる垂れ流しのような融資によって、資金は不足しているという。他方企業部門では生産能力が余剰化している。国内市場はこれから開拓していくが、資金をもっとも必要とする内陸部には回らず、どうしても大都会の不動産に投下されていく。
大都会では2009年を境にして、それ以前に住宅を買った場合は、数倍の値上がりはしている。生産が停滞し、住宅価格だけが膨張していくことは、間違いなくバブル経済である。しかし、銀行などは住宅はまだ値上がりの余地があると信じて、どんどん不動産投資に金を貸し、企業も設備投資より不動産投資のほうがずっと収益が上がるとばかりに、一斉に不動産に投資している。