社説

企業がん検診/雇用延長で高まる必要性

 がん検診に職場挙げて取り組もう。そうした機運が企業で高まってきている。
 企業が4月から、希望者全員を60歳以降も継続雇用するよう義務付けた法改正が要因の一つ。高齢社員の健康を守り、膨らむ医療費の抑制につながるとの期待もうかがえる。
 厚生労働省が2009年に始めた職域検診推進事業「がん検診 企業アクション」への理解が広がっている側面もある。
 がんは日本人の2人に1人が罹患(りかん)し、3人に1人が命を落とす「国民病」。年間約75万人(推計)がかかり、約36万人が亡くなっている。
 がん検診の受診率の低さが「がん大国」の背景にある。受診率は欧米に比べて大きく見劣りし、発症の部位によって異なるものの、その率はいずれも2〜3割にとどまる。
 治療方法の研究開発、医療技術の向上などで、がんは早く見つけ治療を行えば、かなりの率で治るまでになっている。
 もとより、がんを遠ざける生活習慣の改善が基本だが、仮に侵されても完治を望める早期発見との二段構えの取り組みが重要となる。
 最後のとりで、早期発見は定期的に検診を受けてこそだ。早期のうちに見つけられる期間は1〜2年とされる。発見できるレベルのがんが治療の難しくなる段階に進行するまで、それほど余裕はないわけだ。
 がんの発症は年齢とともに上昇し、中高年のリスクは高い。特に、50代後半からの伸びは著しく、60代前半の男性の場合、人口10万人当たりの患者は1000人を超える。
 年金受給年齢の引き上げを背景にした改正高年齢者雇用安定法の施行で、企業は高年齢層の社員を抱え込むことになる。
 必然的に在職者ががんになる可能性は高まり、医療費がかさむ懸念も強まる。社員の健康維持を図りつつ健康保険財政の悪化を防ぐ手段として、検診に注目が集まる流れにある。
 健康チェックの行き届いた企業の1人当たり医療費は健保組合連合会の平均と比べ各年代で低く、死亡率も同様という。
 すべての要因を検診に結び付けるわけにはいくまいが、十分にうなずける。定期的ながん検診などで体の異常を早めに知り、早期の段階での治療につながるはずだからだ。
 がん治療に関わる医療費は年間2兆8572億円(2008年度国民医療費)。高齢社会の進行で医療費の増加は避けられず、それだけに治療費が高額となるがんの対策は急務だ。
 当初、全国で62社にとどまった企業アクションへの登録は現在984社。数は着実に増え、機運も高まっているが、さらなる浸透を図りたい。
 この際、リスクの高まる年齢層について、がん検診を法定の定期健康診断の検査項目に加えることも検討すべきだろう。
 厚労省は改正がん対策推進基本計画で受診率50%を個別目標に掲げる。雇用の継続を検診促進の弾みにしない手はない。

2013年06月26日水曜日

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