悩みに悩んだ末、帰化を決断した。通名の「大山」を使わずに「李」として届けた。
在日コリアンの帰化に対するネガティヴイメージは未だに根強い。李忠成が帰化して日本代表になったことに、在日社会では波紋が広がった。著者もまた、李が下した決断を寂しく思うところもあったと語る。しかし取材を進めるうちに、国籍にとらわれずサッカーに邁進する李の中に新しいザイニチ・サッカー・アイデンティティーを発見していく。
韓国での合宿から帰える飛行機の中、李は思った。
「朝鮮半島にルーツがあるけど、日本で生まれ育った僕は韓国人ではないのかもしれない。でも、日本に戻れば国籍上は外国人になる。韓国人でも日本人でもない僕は、何人なんだろう」
李は猛烈に自分探しを始めた。「日韓問題」「国籍」「差別」「在日コリアン」というタイトルを書店で見つけると、つい手が伸びたという。
鄭大世は言う。
「日本の中にもうひとつの国があるような感覚なんです。それが“在日”という国。朝鮮でも、韓国でも、日本でもない“在日”という国が、オレにとっての母国なのかもしれない」
在日コリアンのサッカーへの情熱、民族への感情、そして葛藤。日本人である私にとって、本書を通してもなお、それらを心の底から理解するのは難しかった。同じ土地や経済、政治のもとに生きる人間、さらに言えばその中のマジョリティーである私たちからすれば、彼らは日本人と何も変わらない存在であると言うことは容易い。だがその言葉の裏側には、ときに黙殺という態度が隠されている。そのことに気づかされた。(HK 吉岡命・遠藤譲)