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李忠成と鄭大世。帰化という決断、在日サッカーの葛藤

2013年6月18日 11時00分 (2013年6月21日 11時46分 更新)

『祖国と母国とフットボール ザイニチ・サッカー・アイデンティティ』慎武宏・著/朝日文庫
在日コリアンサッカーを語るノンフィクション。鄭大世や李忠成だけでなく、82歳の「在日サッカー界の恩師」を始めとする歴代の在日選手、指導者へのインタビューは圧巻。職業差別や日本人からBB弾で狙撃された体験。北朝鮮の拉致問題に火が着いてからは「北に帰れ!」との罵声を浴びた選手もいたという。一方、韓国に渡れば「パンチョッパリ」と侮蔑されることも。著者も在日コリアンであるため選手はみな素直にその体験と心情を話してくれる。その点に本書の最大の魅力がある。

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悩みに悩んだ末、帰化を決断した。通名の「大山」を使わずに「李」として届けた。

在日コリアンの帰化に対するネガティヴイメージは未だに根強い。李忠成が帰化して日本代表になったことに、在日社会では波紋が広がった。著者もまた、李が下した決断を寂しく思うところもあったと語る。しかし取材を進めるうちに、国籍にとらわれずサッカーに邁進する李の中に新しいザイニチ・サッカー・アイデンティティーを発見していく。

韓国での合宿から帰える飛行機の中、李は思った。
朝鮮半島にルーツがあるけど、日本で生まれ育った僕は韓国人ではないのかもしれない。でも、日本に戻れば国籍上は外国人になる。韓国人でも日本人でもない僕は、何人なんだろう
李は猛烈に自分探しを始めた。「日韓問題」「国籍」「差別」「在日コリアン」というタイトルを書店で見つけると、つい手が伸びたという。

鄭大世は言う。
日本の中にもうひとつの国があるような感覚なんです。それが“在日”という国。朝鮮でも、韓国でも、日本でもない“在日”という国が、オレにとっての母国なのかもしれない

在日コリアンのサッカーへの情熱、民族への感情、そして葛藤。日本人である私にとって、本書を通してもなお、それらを心の底から理解するのは難しかった。同じ土地や経済、政治のもとに生きる人間、さらに言えばその中のマジョリティーである私たちからすれば、彼らは日本人と何も変わらない存在であると言うことは容易い。だがその言葉の裏側には、ときに黙殺という態度が隠されている。そのことに気づかされた。(HK 吉岡命・遠藤譲)

ライター情報

HK(吉岡命・遠藤譲)

文芸カルチャーマガジン「HK」の2人組ユニット。編集長の吉岡は元旅人。遠藤は89年生まれのフリーライター。雑誌ではシェアハウス、ホームレス、老人ホーム、現代葬儀事情など体当たりのルポルタージュ記事を書いています。文学から社会問題まで幅広く扱います。基本的になんでもやるのでお仕事のご依頼はツイッターまで。

ツイッター/@HKeditorialroom

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