城では兵達が騒ぎ立て、場外には一般市民も押し寄せるほどの騒ぎだ。
岩竜の目をとって来た私達の迎えがあるどころか、完全に蚊帳の外である。
「いったいどうした」
フイ兄さんが市民の一人を捕まえ聞いた。
「今城にあの、【剣聖】ミキン・ノートが来てるらしい」
「ミキン・ノート!?」
フイ兄さんが驚くのも無理はない。
ミキン・ノートとは世界に50人といないSランクハンターだ。
正義を愛し、華麗な剣で相手を圧倒する姿からついた異名が【剣聖】である。
そんな大物が一体この国に何のようがあるのだろうか。
私達は城に集まる群衆を押し分け、城へと入った。
「割り込むんじゃねーよ」
「俺は城に用事があるんだ」
「嘘をつけ!!」
残念ながらライ兄さんは群衆に捕まった。
…もう助からないだろう。
門を抜けた先に、副大臣ロンロンの姿を見つけ、早速詳しい事態を聞いた。
「おおっみなさん無事でしたか」
「はい、無事戻りました。
ミキン・ノートが来てるとか」
「そうなのです。王様へ大事な報告があって来たそうですが、用事が済んだ今は誰かを探しているようで」
「誰ですか?」
「海を割る男だそうです。
山を割る男ならいると教えたら、城でサイ様を待つと」
海を割る…。
多分私だろう。
困った男が来てしまった。
ほぼ間違いなく手合わせ願う!!とかに違いない。
考えてるだけで腹が痛くなる。
「さぁ、みなさんどうぞ城の中へ。
国王様とミキン様がお待ちです」
フイ兄さんとガリクさんは喜んで、城の中へ駆けていった。ロンロンもあとに続いて入る。
ミキン・ノートはSランクハンターの中でも、人気が高い。
剣が美しいとか、顔がかっこいいとか、噂は多々ある。
私も会いたかったが、絶対に目的は試合だろう。
私は逃げることにした。
城の端の城壁をよじ登り、村で数日かくまってもらおう。
それがいい、誰が好んで死ににいくもんか。
城壁を必死によじ登るが、さすがは城壁。
簡単には登らせてくれない。
木登りの得意な私だが、平面はきつかった。
仕方ない、ライ兄さんが犠牲になった門から出るか。
服に付いた壁の汚れを払い、門へ向かおうとしたとき、一人の女性が後ろに立っていることに気づいた。
「サイ様ですよね」
そこには、手足がスラリとした、色白で可憐な女性がいた。
顔を良く見ると、これまた綺麗に整った顔であり、女性らしい丸みもある。
特徴的なパッチリとした目は、私のどストライクである。
私は、少し目頭に力を入れ、低い声で答えた。
「そうです。あなたは?」
「レインです」
きたーーー。
というのは、こういうときのための言葉だろう。
目ん玉取ってきて良かった。
「縁談が勝手に決まってしまいましたね。全く困った親たちだ」
「そうですね、ふふっ」
彼女は口に手を当て、微笑んだ。
今のは好意的に受け取っていいのだろうか?
いや、いいに決まっている。
「ほら、岩竜の目です。綺麗ですから、見て下さい」
私は目の入った容器を差し出した。
「うわぁ、綺麗。
大変だったでしょ?」
「いえ、私にかかれば岩竜の一頭や二頭」
「ホントに!?じゃあ、今度またとって来てくれます?
妹達が欲しがってて」
「もちろんです!!」
全く男というものはどこまでもバカだぜ。
「サイ様の剣技は凄いと聞いてます。是非、私も見てみたいです」
彼女は目を輝かせてこちらを見る。
そんな目で見られたら、断れないじゃないか。
私は剣を抜き、ドヤ顔を決め、剣を上段に構えた。
「あっ待って下さい。
どうせなら試合でその剣を見せてくれませんか?ミキン様が試合たいとおっしゃってましたし」
なんという暴言を。
しかし、今の私は止まらない。
「ミキンを斬って見せましょう」
人の歴史は女によって作られた。今ならそんな歴史に残る名言だって言えそうだ。
レイン姫の優しい暴力に逆らえない私は、ただ黙って城の広間へ案内された。
そこには大勢の騎士に囲まれた長身の男が一人。年は30後半といったとこか。
顔はやけにダンディだ。
綺麗な赤色の服をまとい、腰には細い長剣が一本。
頭には羽根付き帽子をかぶり、意見どこかの貴族にも見える。
でも、あの人気ぶりは間違いなくミキン・ノートだろう。
彼はその高い身長でいち早く私の存在に気づいた。
群がる騎士に道を開けさせ、私の元へ来る。
「君が海割か?」
「いえ、山割です」
何とも不思議な会話だ。
「海は割らないのかい?」
「はい、海は無理です」
「なんだ、残念。
山なら私も割れるが、海を割る男には出会ったことがない。
海割なら試合ってみたかったのだが」
はぁー、どうやら戦わなくてすみそうだ。
しかし、ホッとした私の前にレイン姫が出てきて、また優しい暴力をふるのだ。
「ミキン様、この人はサイ様。私の婚約者です。
是非あなたを斬りたいらしいです」
その瞳は輝きに満ちていた。
天然ですね。
婚約解消できるなら今すぐしたい。
「ほう、まだ若いようだが、実に勇ましい。
喜んで受けてたつ」
ミキンは剣を抜き構えた。
なぜかその姿は兄達と重なる。
多分、この人もバカだ。
ミキンが剣を抜いたことで、騎士たちは喜び集まってきた。
私が躊躇していると、何事かと城中の人々が集まった。
振り向くと、後ろの方で肩車をしてまで見ようとする人までいる。
国王様に似ているのは気のせいだろう。
皆の目は次第に私に集まり、まだかまだかと思いを募らせる。
ここまできたら抜かないわけにはいかないが、こんなとこで死んだら悲劇もいいとこだ。
死にざまによっては、喜劇になってしまうかもしれない。
「一つ提案がある」
ミキンが目を合わせ言った。
「なんですか?」
「私は魔法も使える。
実践も君より山ほど多い。
普通に戦えば勝負にならないだろう。
そこで、
コインを投げ、落ちた瞬間に斬り合う、剣のスピード勝負をしないか?」
「それでいいです」
いや、それがいいです。
私たちは近づき、お互いの間合いに入る。
一人の騎士が呼ばれて、コインを渡される。
「いいかい。コインが床についたら、開始だ」
「わかってます」
コインを渡された騎士は、数歩下がりコインを天井ギリギリまで弾く。
私は横目でコインを見ていたが、なかなかコインが落ちない。
人生でこんなにゆったりとした時間の流れは初めてだ。
これで過去が見えようものなら、天国はすぐそこだ。
しかし、過去は見えず、コインは地についた。
私は右手一本で剣を抜き、
ミキンの左肩に一閃。
ミキンはスピードで負けたことをいち早く察し、半身でかわしたが、それでも私が返り血を浴びるほどの傷は負わせた。
なんと、勝ってしまった。
あたりから歓声があがり、レイン姫も近寄ってくる。
やってしまった。
【剣聖】、斬ってしまった。
レイン姫が何かを話しているが、放心状態で良く聞こえない。
でも、私は生き残った。
笑ものにならなくてよかった、とりあえずそう思った。
「お見事。こんなに早い剣は初めてだ」
ミキンが駆け寄ってきた医師に治療されながら、私を褒め称える。
「君に話したいことがある」
「なんですか?」
「実はハービンの国王にだけ伝えて帰るつもりだったのだが、
君にも知る義務がある。
まだあまり知られていないが、先日史上始めて【天空の園】の主が狩られた」
「凄い人もいたものですね」
SSランクの最深部まで行くとは、世の中には変わった人たちがいたものだ。
「狩ったのは、【黒の爆魔】ゴマズ・ドーンが率いる最強軍団」
ゴマズ・ドーン。
馬鹿でも知ってる名だ。
世界に4人しかいない、伝説のSSランクハンターだ。
その人が率いる軍ならさぞ強いのだろう。
「ハービン王国の隣国、ワーファ王国には謎の巨大な門がある。
門はずっと謎のものだったが、ドーン達が【天空の園】を制した直後に、門の中に異次元の空間ができた。
ドーン達はそれを聞きつけ、全軍で向かったのだが、結果は全滅。
ドーンも討ち死にだ」
「ドーン様も!?」
「2日とかからず、全滅したそうだ。準備不足もあったが、間違いなく史上最強のダンジョンだろうと言われている。
私達は、神の国と呼んでいるが、この神の国を巡って世界中のハンター達が動き出している。
中心になっているのは、3人のSSランクのハンター。
ハンター達は今この3人の派閥に入るか、それとも自分達で派閥を作るかで分かれている。
神の国を制したものが次の時代の覇権を握るだろうと言われいているからな」
「ミキンさんはどうするのですか?」
「私は3人に会って惹かれた人物について行く。君はどうする?」
私は…。
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