花澄が雪也に惹かれている理由は、環もなんとなくわかっている。
雪也の優しく真っ直ぐな心、周囲への気遣い……。
それは、環にはないものだ。
育ちの違いなのか、生まれ持った性格の違いなのかはわからない。
けれど堂々と正攻法を選べるあの男と違って、自分にはこの方法しかない。
花澄を騙してでも、卑怯な手段を用いてでも――――花澄を、離したくない……。
花澄を許されない関係に引き込んだのは自分だと、わかっていても……
もう、後戻りはできない……。
雪也とは違い、生まれも育ちも劣る自分。
これまではその事実を受け止めつつも、どうする術もなかった。
――――この身ひとつの自分。
今の自分にできるのは、ただ愛し、尽くすことだけ……。
そう思っていた。けれど……。
環は離れの自室に戻り、机の上に置いてあった書類を手に取った。
封筒に入ったそれらの書類の表題には、『奨学金募集要項』『国費留学』『招待留学』などの文字が躍っている。