環はもう一つの枇杷を手に取り、同じように器用に皮を剥いていく。

横の方に穴が開いているのを見ると、同じように鳥が突いたものらしい。

花澄は枇杷の実を指先で支え、その瑞々しい実を齧った。

甘く爽やかな芳香が口いっぱいに広がっていく。

花澄の前で、環も剥いた枇杷を一口齧った。

紅く形の良い唇が、果汁に濡れて艶やかな色を帯びる。

前は何とも思わなかったのに、……なぜか、正視できない。

頬を染め、思わず俯いた花澄だったが……。


「……口元に、ついてる」


口元に触れた環の指の感触に、花澄は息を飲んだ。

環の親指が花澄の唇の端に触れ、口元をぐいと拭う。

……その、少しひんやりとした指先。

驚いてはっと顔を上げると、すぐ傍に環の顔があった。

かすかに枇杷の香気が漂う、甘い吐息。

まるで誘い込むような、美しい榛色の瞳……。


「……っ!」



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