100人の母を撮影した女性写真家、訴えるのは「原発のない世界」です。
母と子の日常を写した写真には子どもを守りたいという母親たちの強い決意が込められています。
「ママは、あなたたちを守ってあげられているかな?
いっぱいガマンさせてごめんね。
大好き。
福島も大好き」 〜写真集「100人の母たち」より〜
「色々なモノを取り払ってみた。
なによりも、命が大切だって気づいた」 〜写真集「100人の母たち」より〜
穏やかで温かい笑顔の母と子。
その多くは原発事故への不安から逃れるために避難した親子です。
撮影したのは写真家・亀山ののこさん。
彼女もまた子どもを連れて避難した1人です。
彼女たちが望むのは「原発のない世界」です。
ののこさんは、これまで東京を拠点にファッション雑誌などで活躍してきました。
震災が起きた日まで原発のことを気に留めたことはありませんでした。
しかし、東京での生活も放射線の影響がゼロではないことを知り、子どもを連れて福岡へ移住することを決めました。
今まで得た仕事を犠牲にしてでも、子どもを守ることを選びました。
【亀山ののこさん】
「お母さんが子どもを守りたいっていう気持ちは全然神経質なものじゃなくて当たり前の本能だし、子どもを守りたい、だから「もう原発はいらない」って、それこそが確かなものなんじゃないかな、って思ってお母さんと子どもの写真を撮ろうと思いました」
『原発はいらない』
その思いで撮り始めた母と子の写真。
しかしそれを伝えたのは「怒り」や「不安」という表現ではありませんでした。
【亀山ののこさん】
「みんなほんとに子どもと一緒にいると優しくってキラキラ輝くお母さんなんだよって、こういう普通のどこにでもいるお母さんが『もう原発はいらないよ』って声をあげてるんだっていうのを表現したかった。遠いところで起こっていることではなくって、いまほんとに当事者の一人として考えてほしいなって思います」
現在、京都には福島などから自主的に避難したおよそ400人が暮らしています。
震災が起きてから2年あまり、まだ多くの人が故郷を遠く離れた生活を続けています。
横浜に住んでいた林飛鳥さん。
原発事故の後は以前のように子どもと外で遊ぶことができなくなりました。
【横浜からの避難者・林飛鳥さん】
「横浜の中でもホットスポットと言われた地域に住んでいたので、まあそういったこともあってこれからどうやって子育てしていこうかっていうのを考えることになりましたね。放射能が目に見えないことで気を付けていくことが難しい、誤魔化されていきやすいっていうところが一番怖いかなっと思っていて、どうしても私たち、私自身もそうですし、なんか忘れていってしまう。でもやっぱりそうではなくて、本当の安心した暮らしができるために、(原発は)絶対に未来に残していきたくないものとして、いま自分が出来ることはしていきたいなと思っています」
ののこさんが撮った母と子100枚の写真は1冊の写真集になりました。
京都の書店ではいま、その写真展が開かれています。
原発について考えることを「特別なこと」にしたくなかったという思いから、会場には誰でも気軽に立ち寄れる書店を選びました。
写真のモデルになった1人、宇野朗子さんは震災が起こったその日に子どもを連れて故郷の福島を後にしました。
【福島からの避難者・宇野朗子さん】
「(娘は)4歳になったばっかり。子どもがいたから避難しようって。とにかく遠くに行こうって」
【亀山ののこさん】(自身の写真展を眺めて)
「ほんとに最初はこう、手探りで、たった1人を撮り始めたときのことを思い返すっていうか、そのときこんなことに繋がるとは思わなかった」
【宇野朗子さん】
「3・11前の、福島に帰りたいなって、それを福島に住んでる人もきっとそう思ってると思うし、みんなどこかで、それでも前に進まなきゃって、私には今の事故現場の状況も、汚染が広がってしまって、それをどう乗り越えていくか、子どもをどう守るのかっていうのも、正解とかはわからないんだけれど、でもこうやって心と心でちゃんと繋がって乗り越えていけるんじゃないかなぁと」
写真展にはこんな人も訪れていました。
【茨城から避難の女性】
「私も避難してきているので、なんか自分だけじゃないんだなって思うと…力をもらえる感じがしました」
「あなたの未来はわたしの未来。
母はよわく頼りないのですが
誰よりも深くあなたを愛しています」〜写真集「100人の母たち」より〜
「私はこれまで、世界中の武器が
花に変わるようにと願ってきました。
いつか原発も花になれ」 〜写真集「100人の母たち」より〜
不安で先が見えないときも、「お母さんが子どもを守りたい気持ち」だけは確かでゆるぎないものです。
美しい優しい写真こそ多くの人の心に届くと、ののこさんは信じています。
【亀山ののこさん】
「ほんとに反対、反対っていうだけじゃなくて、子どもたちに少しでも良い未来を繋ぐために一緒に声をあげませんかっていうのを伝えるっていうか、そういう気持ちに1人でも多くの人がなってくれるような写真を撮っていきたいなって思います」
あの日、子どもを守ると固く誓った母たち。
ののこさんの写真は、その「心からの訴え」を写し出しています。