美鈴はくすりと笑い、環を見る。
環はその榛色の目を細め、すっと背を屈めた。
優雅な仕草で一礼し、口元に優しい笑みを浮かべて美鈴を見る。
「ご結婚おめでとうございます、美鈴様。これからも旦那様やお嬢様と末永く仲良くして頂けますよう、お願い申し上げます」
────7年ぶりに見る、執事モードの環。
今思うと、暁生として接していた時の環と、執事モードの環はなんとなく似ている気もする。
同一人物だから当たり前と言えば当たり前なのだが……。
久しぶりに見るその姿に思わず見惚れる花澄の前で、美鈴は少し笑って唇を開く。
「今のあんたに『様』って言われるとなんだか複雑な感じね。今となってはあんたの方がむしろ『旦那様』でしょ? ……ま、いいわ。また今度、皆でお茶でもしましょ?」
美鈴はひらひらと手を振り、踵を返した。
昔から変わらない、毅然としたその後ろ姿。
花澄は環とともに美鈴の姿が林の向こうに消えるのを見送った後、工房の方へと足を向けた。