『環。どうしてお嬢様がお前を選ばなかったのか、わかる?』
『お前はお嬢様の気持ちを半分も理解していない』
『お嬢様と一緒に育ったお前より、雪也様の方が何倍もお嬢様を理解してらっしゃる』
────7年前、香港に旅立つ直前の、空港での母の言葉。
あの言葉が今、脳裏に蘇る。
無意識のうちに噛みしめた唇から、じわりと血が滲む。
あの男は、気付いていたのだろうか────。
自分が気付かなかった、彼女の『弱さ』に……
あの男は、……雪也は、気付いていたのだろうか……。
「……っ、花澄……っ」
これまでは、彼女が自分とともに来なかったのは、雪也を選んだせいだと思っていた。
7年前、何も持っていなかった自分に比べ、雪也は生まれも地位も財産も、全てを持っていた。
だから彼女は自分を捨て、あの男を選んだのだ、と……。
哀しみに目が眩み、母の言葉に向き合おうとせず、ただ裏切った彼女に対する恨みだけを募らせていた。
けれど……。