恐らく皆、どこぞの御曹司か、社長か、はたまた『屋』のつく職業だろう。

これは昔取った杵柄モードでいくしかないか、と内心で思った、そのとき。


一番奥にいた男性の顔を見た瞬間。

────花澄は、凍りついた。


胸が、ドクンと大きく高鳴る。

花澄は目を見開き、思わずその男の顔を凝視した。


漆のように艶やかな、少し長めの黒い髪。

紅梅を溶かしたかのような紅い唇に、白皙の頬。

そして銀縁眼鏡の奥の、少し翳りを帯びた黒い瞳……。

上品な濃紺のストライプのスーツに赤茶のネクタイを締めたその姿は、大人の男の貫録と色気を漂わせている。

花澄は息を飲んだ。



────環!?



花澄の顔から一瞬で血の気が引く。

外見は変わったかもしれない。

が、自分が彼を見間違うはずがない。


花澄は反射的に身を翻し、エントランスの方へと走り出した。

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