センバツ出場校の部長・監督、6校11人が金銭受領 100万円超も
産経新聞 6月11日(火)7時55分配信
今春の選抜高校野球大会で、21世紀枠で出場した福島県立いわき海星(かいせい)高の野球部長が、餞別(せんべつ)として受け取った現金を校内で盗まれる事件が起きたことを受け、産経新聞では出場全36校の野球部の部長および監督に、金銭授受についてアンケートを行った。26校から回答があり、6校計11人が出場を機に個人的に金銭を受け取ったと答えた。
アンケートは4〜5月、匿名を条件に、個人的な金銭授受に関して選択と自由記述形式で実施した。
金銭提供の「申し入れがあった」と答えたのは14人。名目(複数回答可)は「出場祝い」が11人、「餞別」が5人だった。申し入れがあった14人のうち11人が「受け取った」とし、受領額は、5万円未満〜100万円以上と幅があった。
使途については、「後援会に入れた」「学校の募金口座に振り込んだ」など、学校や部のために使ったと回答した指導者が6人いた一方、記念品やお土産購入など個人的に使ったとした指導者も4人いた。
アンケートでは金銭授受の慣習化についても調査。40人が「慣習化していない」としたものの、1人は「している」と回答した。
日本学生野球憲章は、指導者の金銭授受について、「教職員の給与に準じた社会的相当性の範囲を超える給与・報酬を得てはならない」と規定。ただ、日本高等学校野球連盟(高野連)は、餞別などに関し「結婚祝いや出産祝いと同じで、指導への対価ではなく、野球憲章に違反していない」との見解を示している。
■「個人」全面禁止多く
アンケートに回答を寄せた野球部の部長や監督からは、個人的に金銭を授受することに対する危険性を指摘する声も相次いだ。
いわき海星高校野球部長の金銭授受については、県教育庁も高野連の見解同様、地方公務員法違反の可能性を否定。「教員に限らず公務員は営利目的の仕事に従事できないが、部長が受け取ったお金は職務に従事して得たものではない」として合法性を強調している。ただ、アンケートでは指導者が金銭を受け取った場合について、5人が「采配や部の運営に影響が出る」と回答、懸念を示した。
自由記述形式で意見を求めた質問では、個人的に金銭を受け取った場合の影響を考慮し、自主規制の必要性を説く指導者も。
東日本の学校は「個人(部長と監督)が金銭を受け取ることは不可」とし、「野球部に対しての寄付であれば学校に連絡の上、『指定寄付』という形で透明性を持たせて受け取るのはよい」と説明する。
西日本の学校も「必要があれば後援会や父母会の承諾を得て、領収書を提出することが(金銭授受の)最低の条件」と主張。「出場に対する祝い金は、全て後援会に入れるため、(指導者は)一円たりとも自由に使えない」とつけ加えた。
このほか、「学校寄付のみ受け取りと決められている」「あってはならないと考えている」など、個人的な金銭授受を全面禁止している学校は多かった。西日本の別の学校は、「受領する側はもちろん、渡せば何とかなると考えている側にも問題があるのではないか」と、提供側の意図についても疑問を投げかけた。
■1試合1200万円 資金集め奔走
個人的に金銭を受け取ることもあることが判明した指導者たち。背景には、甲子園出場で歓喜に沸く中、巨額費用捻出を強いられる各校の実情があるようだ。
「地域や生徒数によって異なるが、甲子園で1試合戦うには、1200万円くらいかかる」。今春の選抜出場を逃した、ある強豪校の指導者はこう明かす。
大会本部は、ベンチ入り選手の交通費や宿泊費の一部を支給。しかし、ベンチ外の部員の費用に加え、3千人を超す応援団のバスのチャーター代や弁当代、1人400円かかる入場料などは各校の負担になる。
過去に何度も甲子園に出場した経歴を持つ同校では、昔から出場決定と同時に、全職員で寄付集めに奔走する。寄付が集まらないと、生徒らに高額な自己負担を強いることになるためだ。この指導者は「甲子園出場は野球をしにいくだけでなく、お金を集めないといけない必然性に迫られる」と明かした。
同校では、甲子園出場時は特別後援会を設置。指導者の個人的な受け取りや私的流用が一切ないよう、寄付を厳重に管理している。一方で初出場校や数十年ぶりに出場を決めた学校は、「寄付を集め、管理するノウハウがなく、苦労している」(同指導者)という。
「後援会の寄付が集まらず、大変苦労した。個人的にいただいたのも後援会の寄付に入れた」(東日本の出場校)。アンケートでも個人的に受け取ったとしたお金を、寄付集めに苦戦していた後援会へ寄付したと回答した指導者がいた。
■「違反でなくても、よくない」
≪野球憲章の研究をしている早稲田大学スポーツ科学学術院の中村哲也助手(社会学)の話≫「祝い金として、同僚や身内から常識の範囲内でもらう分には問題ない。ただ、渡し手が保護者を含めた外部の人で特に高額な場合、どういう思惑が絡んでくるか分からず、選手起用や進学などに影響する恐れがある。憲章違反ではなくても、よくない。後援会などへの寄付を受け取るなら、個人的にではなく、憲章でも認められている学校や野球部への寄付という形で受領すればいい。外部から見ても怪しまれないように、使途を明確にして、グレーな部分をなくすことが大事だ」
【用語解説】餞別盗難事件
福島県立いわき海星高校の野球部長が、知人らから餞別や祝い金として個人的に受け取り、校内に保管していた約90万円を盗まれた。同校は初戦で同じ21世紀枠の遠軽(北海道)に敗退。部長は甲子園から戻った後の3月29日に、現金を職員室の自席の引き出しに入れて施錠。その後、休暇を取り、4月3日に出勤したところ、鍵が壊され、現金がなくなっているのに気づき、警察に届け出た。
最終更新:6月11日(火)7時55分