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リスクを飼い慣らせば未来が見える

第1回
「リスクマネジメント」と「危機管理」は、ここが違う

リスクコンサルタント 浦嶋 繁樹氏
2005年7月5日

 「リスクマネジメント」が日本語として受け入れられたのは、2001年のことであった。それを象徴するのが、その年の3月20日に、経済産業省が発表したJIS規格「リスクマネジメントシステム構築のための指針」である。それまで、通産省の下で「危機管理システム構築のための指針」という名前で進められたプロジェクトだった。

 これによって「リスクマネジメント」と「危機管理」が違うということも明確になった。従来の危機管理では企業は守れないことがはっきりしたからである。

 それでは「リスクマネジメント」と「危機管理」とはどう違うのだろうか。

 それを理解するには、「Risk(リスク)」と「Crisis(危機)」の違いを知っておく必要がある。

 危機というのは、既に発生した事態を指している。これに対して、リスクはいまだ発生していない危険を指す。ここから、「危機管理」と「リクスマネジメント」の違いが見えてくるだろう。

 つまり「危機管理」というのは、既に起きた事故や事件に対して、そこから受けるダメージをなるべく減らそうという発想である。だから、大災害や大事故の直後に設置されるのは、「危機管理室」や「危機管理体制」などと呼ばれるわけだ。

 これに対して「リスクマネジメント」は、これから起きるかもしれない危険に対して、事前に対応しておこうという行動である。

 身近な例にあてはめてみよう。

 外出するときに雨が降っても濡れないで済むよう、折り畳みの傘を用意していくのは「リスクマネジメント」である。これに対して、傘を持たずに雨に降られてしまい、あわてて雨宿りの場所を探したり、コンビニエンスストアでビニール傘を買ったりするのは「危機管理」である。

危機管理もリスクマネジメントの一手法である

 ここからも分かるように、リスクマネジメントの特徴は、常に前向きで能動的である点だ。なぜなら、リスクは常に未来に存在しているからである。

 リスクは未来に存在し、リスクの要因であるハザードは過去に存在する。それを管理にできなければ「危機」につながっていくわけである。

 「Risk」の語源は、「絶壁の間を船で行く」という意味だといわれている。たとえ両岸が絶壁であっても、あえてそこを越えないことにはチャンスに巡り合う可能性もない。リスクは「自ら覚悟して冒す危険」であり、「冒険」と訳すのが正解であるだろう。最近でこそベンチャー企業という呼び方がでてきたが。

 リスクを冒すからこそ、チャンスが訪れる。行くのはリスクかもしれないが、行かないのもまたリスクである。

 例えば、企業が海外へ進出するには大きなリスクを伴うが、進出することによって大きなプラスを得るチャンスも含んでいる。

 一方、「危機(Crisis)」の語源は、「将来を左右する分岐点」という。危機管理は、既に起きた事態を扱うものであり、受動的にならざるをえない。マイナスをいかに減らすかが目的であり、受動的な発想のために大きな損失につながりやすい。

 ただし、ダメージからうまく回復して、企業や組織をプラスの方向に向かわせるという点で、危機管理もリスクマネジメントの一手法であるといえる。

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