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これまでの放送

No.3366
2013年6月18日(火)放送
企業も働き方も激変
~クラウドソーシングの衝撃~

砂漠を時速160キロで疾走する、高性能オフロード車。
最新鋭のアメリカの軍事車両は、これまでにない方法で開発されました。
インターネットでつながった3万人もの人々が、車体のデザインや設計のアイデアを出し合い、開発を後押ししたのです。

オバマ大統領
「この方法は、企業と労働者が強く・速く・賢くなるための最強の武器なのです。」

今、インターネットを使って世界中に仕事を依頼する、クラウドソーシングという手法が急速に普及しています。
ネット上の群衆から技能や知恵を集めることで、新しいビジネスや製品が次々と誕生しているのです。

クラウドソーシング会社CEO
「これは巨大なグローバルビジネスです。
規模はどこまでも拡大していくでしょう。」

さらにクラウドソーシングでは、実績や肩書きのない若者でも、大きな仕事のチャンスが得られます。
たとえ仕事が少ない地方に住んでいても、大都市と同じ条件で仕事ができるようになるのです。

フリーデザイナー
「いい案を出せば、拾ってくれる人もいる。
場所は関係ないと思います。」

私たちの仕事や生き方までも変えようとしている、クラウドソーシング。
今夜は、その可能性に迫ります。

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クラウドソーシング 人材調達に革命

東京・中央区で語学学校を経営する、大塚雅文さんです。
100人の生徒が通う学校を、大塚さんは、たった1人で経営しています。
それを可能にしたのが、クラウドソーシングです。
授業の下調べから講師の手配まで、あらゆる業務をネットを介して海外に委託しているのです。

語学学校経営 大塚雅文さん
「英語とインターネットの環境があれば、世界中のタレント(才能)にアクセスできる話を聞いて、ちょっと試してみようと思って。」

大塚さんが使っているのは、アメリカ最大手のクラウドソーシングの会社です。
この会社のウェブサイトには、さまざまな技能や知識を持った、世界330万の人が働き手として登録しています。
大塚さんもこのサイトに登録し、ここから自分に必要な人材を必要な時だけ選びます。
支払いの条件など、こまごまとしたことはサイトが引き受けてくれるので、手軽に人材を調達できます。

この日の授業は、クラウドソーシングで見つけたアメリカ在住の講師がネットを介して行いました。
時給22ドル、2時間限りの仕事です。




生徒
「もうひとつアイデアがあるんですけれども。」

生徒
「富士山の上にフライパンを置くデザインは、どうですか?」



授業のかたわらで、大塚さんは、フィリピンに住む秘書と業務の打ち合わせを始めました。

語学学校経営 大塚雅文さん
「あなたには、とても助かっています。」

秘書
「ありがとう。」

常にクラウドソーシングのサイトにアクセスし、新たな人材の確保にも余念がありません。
この日も新たな講師の候補として、フランス人の女性を面接。

フランス人女性
「何か質問があるときは、どうすればいいですか?」

語学学校経営 大塚雅文さん
「いつでもメールしてください。」

能力と、やる気さえあれば年齢や国籍は問いません。

語学学校経営 大塚雅文さん
「日本にいながら、世界のタレントを使いこなせるのがいいですよね。
自分はプロデューサー感覚なんです。」

アメリカでは、同じサイトを使って、新たな仕事に次々とチャレンジしている女性がいます。

ニーコ・バーニーさん
「ここが私の仕事場です。
毎日、世界各国とつながっているのよ。」



アメリカ・アリゾナ州に住むニーコ・バーニーさんです。
バーニーさんは、かつてマーケティングのコンサルタントとして働いていました。
しかし今は、専門外のIT情報誌の出版を行っています。
可能にしたのは、クラウドソーシングで集めた専門知識や技能を持った、26人の期間限定のスタッフです。
この日、編集状況について、5人の担当者とネット会議を行いました。

まずは、秘書にあいさつ。
そして、オーストラリアのマネージャー、アメリカのコピーライターに、イギリスの編集長、翻訳担当の韓国人が参加しました。

ニーコ・バーニーさん
「バナー広告の新しいデザイン案を作ってくれませんか?」

プロジェクトマネージャー(オーストラリア)
「はい、今日中にクライアントに見せるための案を作っておきます。」

たとえ専門外の分野でも、アイデアさえあれば、世界中から集めた人材を使ってビジネスを具体化できる。
バーニーさんは今、情報誌の出版のほかに、映画のネット配信など、分野の違う4つの会社を経営するまでになっています。

ニーコ・バーニーさん
「私はビジネスチャンスを見つけても、それを自分だけで実現するスキルはありません。
クラウドソーシングがあれば、必要な人材を見つけ、すばらしい結果を得られるのです。
さらに次々と新たなアイデアを成功させられる、本当にすばらしいことです。」

バーニーさんたちが利用する、アメリカ最大手のクラウドソーシングの会社です。
8年前のサービス開始以来、登録した働き手は、世界160か国に広がりました。

世界のクラウドソーシングの市場も急成長を続け、売り上げは、すでに1,000億円を突破しています。





大手クラウドソーシング会社CEO ゲーリー・スワートさん
「働く人が職場に行く代わりに、企業が働く人に仕事を届けられるようになったのです。
2020年までに、労働者の3人に1人が、ネットを介して働くようになるでしょう。」

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大企業も活用 クラウドソーシング

今、クラウドソーシングには、日本の大企業も注目し始めています。
この大手不動産会社では、多様化するニーズに対応した、個性ある住宅をいかに作るか、壁にぶつかっていました。

大手不動産会社 川路武さん
「すごく人々のライフスタイルが多様化している中で、ニーズの把握みたいなところの勝負になってくるだろうと。」





そこで、この会社が注目したのが、アイデアのクラウドソーシングサービスです。
このサイトには、発想やアイデアに自信のある人たちが1万人登録しています。
企業が抱える課題をネット中継し、そのテーマに関心のある人たちから、解決のアイデアを集める仕組みです。

大手不動産会社 川路武さん
「サンルームのところに土があってもいいんじゃないかなと。
リアルタイムでいいですね。」

この日は、住みやすい家をテーマに、40人が知恵を絞ります。

1つのアイデアをきっかけに、議論が盛り上がりを見せました。

大手不動産会社 川路武さん
「うわー、おもしろいな。
レゴ壁、いいですね。」



不動産会社が注目したのは、壁をおもちゃのブロックのようにするというアイデア。
社内の会議では生まれない、自由な発想でした。
ブロック状の壁などのアイデアは、モデルルームへの設置も検討しています。
不動産会社では、よいアイデアを出してくれた人に、その開発の議論に加わってもらうことにしています。

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若者にチャンス ネットで広がる働き方

若者の街、東京・原宿のビルの一室。
ここに若いクリエーターの集団がいます。
メンバーは5人。
平均年齢は25歳。
ウェブデザインから、スマートフォンアプリの開発まで手がけています。

中心メンバーの岡田隼さん、25歳です。
大学在学中に、仲間と共にこの仕事を始めた岡田さん。
信頼も実績もない中、仕事の受注で頼りにしたのが、クラウドソーシングのサービスでした。

岡田隼さん
「出会うことがなかなか難しい、仕事を一緒にやるのが難しい会社が、クラウドソーシングの場に仕事を出されているので、そういう意味では、すごくいい場所かなと思います。」

今、岡田さんたちが取り組んでいるのが、スマートフォンのアプリをデザインする仕事。
高校生向けの教育ソフトの画面デザインです。
今年(2013年)1月、クラウドソーシングで競合する5つのアイデアの中から選ばれました。
納期が2か月で、60万円。
業界水準から比べても、決して高い報酬ではありません。
それでも、岡田さんたちがこの仕事の獲得にこだわったのには、ある理由がありました。

クラウドソーシングのサイトでは、仕事の履歴がすべて公開されます。
仕事を発注した企業からの評価も記され、それがランキングとなって表示される仕組みです。
自分たちの知名度を上げるために、仕事の単価よりも、まずはランキングの上位を目指していたのです。

岡田隼さん
「僕らの実績を、世の中に出していくところに集中したいなと思っていて、いかに自分たちを魅力的に見せるかという、(クラウドソーシングの)使い方をしていきたい。」

一方、仕事を発注した企業が評価していたのは、岡田さんたちの若さでした。
東京・目黒区にある、スマートフォン向けアプリの開発会社です。
高校生向けのアプリの開発には若い感性が必要だと考え、白羽の矢を立てたのが岡田さんたちでした。

スマートフォンアプリ開発会社 横井明文さん
「スピードがすごく速いので、そこのスピードの速さみたいなところ、短期間で、そこのレベルまで持っていけるようなパワーみたいなものは、すごく感じている。
非常に優秀なチームとできているなと。」

デザインの修正などに素早く対応したことなどが評価された、岡田さんたち。
今、サイト内での評価は、4万社中6位にまで上昇。
仕事の依頼も報酬も増えてきました。

岡田隼さん
「とにかく数をこなして修業するっていう場所として、すごいありがたいと思っていまして、ここで作ってきた実績というものを、もっと外に出していく活動と並行して、今後はやっていければ。」

さらに、クラウドソーシングは、若者の人生の選択にも大きな影響を与えています。

フリーデザイナー 南賢一さん
「おはようございます。」

奈良県に住む、フリーデザイナーの南賢一さんです。
ふるさと・奈良に住みながら、東京や大阪の大手企業から、次々と仕事を受注しています。
この日も、取り引き先から電話がかかってきました。

取り引き先企業
「南さん、すっごいいいです。」

フリーデザイナー 南賢一さん
「そうですか、ありがとうございます。」

3か月かけてデザインした寝具メーカーの仕事に、無事OKが出ました。
こうしたフリーランスでの仕事を可能にしたのが、クラウドソーシングとの出会いでした。
南さんは、4年前まで大阪のデザイン会社に勤めていましたが、自分のアイデアやデザインを試す機会がもっと欲しいと、ずっと悩んでいました。
そんな時、ネット上で偶然見つけたのが、クラウドソーシングのサイトでした。
試しに名刺のデザインに応募したところ、見事に採用されました。

フリーデザイナー 南賢一さん
「求められると、うれしい。
デザイナーとして求められるのは、すごいうれしいです。」

実力さえあれば、実績がなくても評価されることを知った南さんは、フリーになることを決心。
住み慣れたふるさとを拠点に、勝負することにしたのです。




フリーデザイナー 南賢一さん
「見てください。」

「たくさんありますけど。」



南さんは今、東京の寝具メーカーから、定期的にデザインの仕事をもらえるようになっています。
年収は、会社員の時のおよそ2倍になりましたが、その分、責任も大きくなり、徹夜で作業することも増えました。
それでも、実力が正当に評価されるクラウドソーシングの世界は魅力的だといいます。

フリーデザイナー 南賢一さん
「今までの、これまでの実績とか関係なく、いい案を出せば、拾ってくれる人もいる。
(仕事をする)場所は関係ないと思います。」

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社会どう変える 人材革命の衝撃
ゲスト比嘉邦彦さん(東京工業大学教授)

●若者に広がるチャンス 安くたたかれる可能性もあるのでは?

そうですね。
Vで出てた若者の場合、安く請け負っているということがありましたけれども、彼が使っていた修業ということばがキーワードだと思いますね。
クラウドソーシングの世界では、自分たちの実績を積み上げることによって、報酬が上がっていくという仕組みがありますので、そういうふうに考えればよろしいんではないかと思います。
(実際に、時給とか上がっていくのが見える?)
そうですね、実際にそういう事例、いくつもあるんですが、例えばアメリカのITエンジニアの方の場合ですね、4、5年前に時給21ドルで始めて、今、160ドル台で働いていますね。
ですから、そういう実績がありますので、可能だと思います。

●クラウドソーシングの急速な普及の背景とは?

このジョブマッチングというような仕組みは昔からあったんですけども、クラウドソーシングというのは、透明性が非常に高いと。
仕事を出す側も受ける側も、それからサイトのほうも、コストが全部見えるっていうことですね。
誰が、いくらぐらいもらっているのか。
それから、実績もすべて公開されている。
それともう1つは、仕事の種類が非常に多い。
クラウドソーシングでやってる仕事っていうのは、基本的にテレワークでやられてます。
テレワークは、ホワイトカラーの90%の職種ができると昔から言われてるんですが、クラウドソーシングの世界では、それが現実のものとしてなっていると。
ですから、使う側が非常に使い勝手がいいというのが原因だと思います。
(働く側にとっても、いろいろ選択肢が増えると。)
そうですね。

●クラウドソーシング 積極的に活用するアメリカ

先ほどのオフロード車の話でいいますと、あれは従来の形ですと、開発に10年ぐらいかかると言われてたそうです。
実際、これは4か月で作った。
(たった4か月?)
はい。
コストも数十億ドルと言われていたのが、10分の1以下で済んでいると。
ということで、企業のほうから見ても、例えば新商品開発をするにしても、従来よりも圧倒的に速いスピードで、4倍、5倍のスピードで、なおかつコストは何分の1ということで可能だということが分かったということですね。
それが、いちばん大きな原因だと思います。
(自社だけでは限界がある?)
そうですね。
例えばイノベーションというキーワードがありますが、イノベーションを促進するために、会社の中でも人材の流動化を起こして、あるいは多様性をということを、キーワードで叫ばれていましたけれども、クラウドソーシングで得られる人材の多様性、人数っていうものは、どんな大企業であってもかなわないわけですよね。
ですから、クラウドソーシングを使わない手はないということだと思いますね。

●日本の企業の利用の度合いは今、どのレベルにある?

日本の企業は、まず日本のクラウドソーシング市場というのが本格的に立ち上がったのが、去年(2012年)からです。
ですから、まだ本当に間もないですね。
今のところ、基本的に主力で使っているのはベンチャーであったり、中小企業が中心で、大企業も使い始めているんですが、まだロゴのデザインとかですね、非常に限られた形であって、アメリカのようにイノベーションであるとか、商品開発にはまだ至っていないというのが現状ですね。

●日本企業がクラウドからメリットを享受できる体制づくりとは?

そうですね、企業側がまずその発注するっていう能力、スキルっていうんですかね、その仕事をちゃんと切り分けて発注するっていうスキルがまず欠けているということ。
それから応募してきたものっていうものをちゃんと評価する、より分けるという能力が不足しているということ、それから最終成果物で出されたものが、本当に自分たちが求めていたものであるかどうかということを、やはり評価するという力がないと。
ですから、その発注する企業側に、それらの力を早急に作らないといけないということですね。
(安く、期間も短く開発された商品と、競争しなければいけない時代がいずれ来る?)
そうですね、海外の企業は、もうそこの方向に動いているというわけですね。

●日本の人材をより高く売り、より多く世界から仕事を得るには?

雇用の流出であるとか、賃金が下がるという可能性は、確かにあります。
それで、実際にクラウドソーシングの市場の単価を見てると、非常に安いものもあるので、それだけを見ると心配してしまうと思うんですね。
ですけど私は、日本のワーカーの質というのは、世界的に見ても非常に高い品質だと思っています。
ただ残念ながら、今のクラウドソーシング市場の評価軸の中に、日本のワーカーの質というものを評価する方法がないんですね。
ですから、それを早急に作る必要がある。
(具体的にそれは何ですか?)
例えば、思いやりだとか、気遣いだとかというものですね。
世界のクラウドソーシングのワーカーっていうものは、例えば発注仕様書に書いてなくて、でもこれ必要だなと思ってても、書いてなければやらないんですね。
日本のワーカーは書いてないと、逆に、ここ必要なんじゃないですかって提案をしてくれる。
ここのところを評価してあげるというのが、非常に重要だと思います。
(日本の労働者の質を評価する方法の制度化を国を挙げて取り組む必要がある?)
1つのサイトでもできないですし、個人でもできないですので、政府を含めた協会なりを作って、対応していくということが重要だと思います。

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