LPSAには「若い渡部さんをみんなで守ろう」との思いがある。その思いは尊いが、今回の問題の本質はそこにない。渡部さん個人に非があると考える関係者は誰一人いない。アマ時代の実績を見ても、女流プロとして十分な棋力があるとの見方が大勢だ。
将棋連盟が疑問視するのはLPSAのプロ認定基準。「LPSA独自棋戦での優勝」などがその基準だが、将棋連盟の「研修会を優秀な成績で卒業すること」に比べハードルが低いと見る向きは多い。青春のすべてを将棋にささげながら、ハードルを越えられず夢破れて将棋界を去った少年少女は数知れずいる。そのハードルを勝手に下げさせるわけにはいかないとの思いが将棋連盟側にはある。
渡部さんにも研修会に入会して修業を積み、その上でLPSA所属の女流棋士として活動してほしいというのが将棋連盟の主張。30日に記者会見した将棋連盟専務理事の田中寅彦九段は「誰に対しても研修会の門は開いている。女流棋士制度は長い歴史の上に築かれている。その形を続けていきたい」と語った。
また、LPSAが記者会見を開き「渡部さんの出場を認めてくれない」とスポンサーのマイナビまで批判したのは愚策だったと言わざるを得ない。渡部さんの出場の是非に関する判断を、スポンサーに「踏み絵」のように要求するのは酷というもの。記者会見を開いて広く伝えるべきなのは、他者を批判する言葉ではなく、将棋ファンにもあまり理解されていないプロ認定基準の正当性ではなかったか。
加えて、LPSAは07年の独立騒動のさなかから、昨年末に亡くなった米長邦雄・将棋連盟前会長の言動などに不信感をつのらせていた。長年の経緯を通じて積み重なったLPSA側の不満が、今回爆発したともいえる。
今求められるのは、将棋連盟とLPSAの一刻も早い和解である。将棋界は、スポンサーが出す棋戦の契約金が棋士に対局料や賞金として支払われることで成り立っている。企業は自社のイメージ向上などを目的にスポンサーを務める。「お金を出した上に面倒に巻き込まれてはたまらない」。スポンサーにこう思われたら将棋界はおしまいだ。将棋界内部で完結させるべき問題でスポンサーのマイナビにまで迷惑をかけた今回の騒動はあまりにもまずい。事実、マイナビ女子オープンの「契約継続に関しては白紙」(将棋連盟の田中寅彦専務理事)。棋戦の存続さえ危ぶまれる。
記者の私案をいえば、(1)将棋連盟が(特例として)渡部さんを「プロ」と認める。(2)LPSAがプロ認定基準をファンや将棋連盟にも認められるよう改善する、あるいは両者が共同の基準のもとに運用する。このあたりが落としどころではないか。現在の混乱はマイナスでしかない。勝敗を競う場面ではない。両者の冷静な対応を願う。
(文化部 柏崎海一郎)
LPSA、プロ、マイナビ、田中寅彦、日本将棋連盟、米長邦雄、日本女子プロ将棋協会、女流将棋界
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