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《22》 ワクチンを接種しないと集団生活を送れない

錦光山雅子 (きんこうざん・まさこ)

5月17日、息子をかかりつけのクリニックに連れて行きました。生後2カ月の健診と同時に、ワクチンの接種を受けるためです。

身長や体重を計り、主治医に息子の様子を報告し終わった後、看護師がやってきました。口から飲むワクチンを済ませた後、左右の太ももに何本か注射をしてもらいました。
息子は大泣きですが、5月末から旅行するので、その前に済ませることができて一安心です。「熱が出るかもしれませんから、不安なら子供用の鎮痛剤を飲ませてください」と主治医。息子はこの日、ずっとグズっていましたが、翌日には普段どおりになりました。

この日の健診で息子が接種されたワクチンは

  • B型肝炎
  • ジフテリア、破傷風、百日咳の3種混合
  • ヘモフィリスインフルエンザB(Hib)
  • ポリオ(不活化)
  • 肺炎球菌
  • ロタウイルス

でした。

ちなみに息子は生まれたその日か翌日、最初のB型肝炎ワクチンも接種されています。
料金ですが、息子が加入している民間の医療保険は予防接種をカバーしているので、自己負担はありませんでした。調べてみると、Vaccine For Children Programという国の財源を使った事業に参加している州なら、保険に入っていなかったり保険が予防接種をカバーしなかったりしても、無料で予防接種を受けられるようにしているそうです。

上のワクチンのほかに、18歳になるまでに決められた時期に

はしか・風疹・おたふくかぜの3種混合、水疱瘡、A型肝炎、ヒトパピローマ(子宮頚がんワクチン)、髄膜炎菌、季節性インフルエンザ

を接種することになっています。

日本では本人や親の意思に任され、接種料が原則自己負担の「任意接種」になっているロタウイルス、A,B型肝炎、水疱瘡、おたふくかぜも含まれています。逆に、日本では接種されている結核のBCGワクチンは含まれていません。

ボストンにあるタフツ大学病院の小児神経内科医の樽井智さんに米国の子供のワクチン接種のスケジュールなどを簡単に教えてもらいました。

まずスケジュール。
米国の子供のワクチン接種のスケジュールはとても簡単です。
2,4,6,12,15,18,24カ月にある乳幼児健診のときに、必要なワクチンをまとめて打つのです。言い換えると、乳幼児健診にさえちゃんと行けば、接種を忘れる心配がないのです。「健診=ワクチン接種」というのは、親からすると非常に分かりやすいです。

「どのワクチンをいつ打つべきなのか、スケジュールが非常に複雑なので、普通の人が、そのタイミングを把握しておくのは大変です。また、子供は風邪などの病気によくかかって予防接種を見合わせることがあるので、タイミングを逃してしまう可能性も高い。このため、米国の乳幼児健診は、発育のチェックだけでなく、ワクチンを接種するための機会ととらえられていて、予防接種のタイミングに合わせて設けられています。こうすることで接種漏れを防いでいるのです」と樽井さん。「まとめて打つと副作用や効き目の低下が心配という人もいますが、同時摂取自体は、特に問題がないことがわかっています」

摂取スケジュールがシンプルな一方、必要なワクチンを必要なときに打っておかないと、ペナルティーがあります。
「米国では州の法律で決められたワクチンを決められた時期にすべて接種し終えていないと、公立、私立を問わず、学校に原則入学できないのです」と、樽井さん。
「学校だけでなく、スイミングクラブに入会するときや夏休みのキャンプなどに参加するときも、既往歴などと一緒にワクチンの接種歴が書かれた医師作成の文書を提出するよう求められるほどです。これも学校と同じで、決められたワクチンが接種されていないと、スイミングやキャンプにも参加できません」

子供だけでなく、外国から留学してくる学生や研究者も、指定のワクチンをすべて打ち終えることが条件になっています。私も渡米前に、指定のワクチンを全部打ちました。
ワクチンを接種してないと集団生活を送ることができない仕組みになっているのです。そうすることで摂取している人を増やし、予防接種の本来の目的である「集団の免疫」を強くして、感染症で亡くなる人を減らすのが目的なのです。

少数ですが、副作用の心配や宗教上の理由などから、子供にワクチン接種をさせない保護者もいます。そういう人たちのなかには子供を学校に行かせないことを選び、自宅で勉強させている家庭もあるそうです。

ワクチンというと、副作用を心配する人もいます。樽井さんは「起こるのはわずかな確率ですが、ワクチンにも副作用はあります。熱や接種部位の腫れなどは時折起こりますが、命にかかわったり、後遺症の残こったりする重い副作用はまれです。ですが、そうした重い副作用がおきる確率と、予防接種をせずに感染症にかかって亡くなったり、後遺症が残ったりする確率を比べたら、後者になる確率の方がずっと高いのです」と話しています。

副作用が起きた場合、米国では、どういう対応をしているのでしょう。
樽井さんは2つの制度を紹介してくれました。
1つは、Vaccine Adverse Event Reporting System (VAERS)というシステムで、ワクチンで起きたと思われる副作用の報告が載っています。米国の医師にはこうした副作用をVAERSに報告する義務があります。データを公開して、オンラインで検索できるようにしています。

もう1つはNational Vaccine Injury Compensation Program(ワクチン無過失補償制度)という事業です。
ワクチン1本あたり75セントを集め、基金として貯めておき、ワクチンを接種したことによる副作用が起きた場合、患者は賠償金を求める裁判を起こさずに補償金を受け取るか、補償金を受け取らずに医療者や、ワクチンメーカー、国などを相手取った訴訟を起こすか、どちらかを選びます。

日本には予防接種法で健康被害救済制度が設けられています。副作用による健康被害は「極めて稀だが、不可避的に生ずる」ということを踏まえ、「接種に係る過失の有無にかかわらず、予防接種と健康被害との因果関係が健康被害救済制度の意義について認定された者を早く救済する」(厚生労働省の説明資料)というのが目的ですが、補償金と引き換えに賠償金訴訟をしないと約束する「無過失補償」ではないのが、米国とは大きく違う点です。「無過失補償」でないことが、訴訟を恐れる国や企業が予防接種の普及に及び腰になっているという指摘もあるようです。

樽井さんの話を聞きながら、昨年11月末に長男を生んだいとこを思い出し、連絡を取りました。

いとこは3月まで名古屋市、4月から夫の転勤に伴って神奈川県厚木市に住んでいます。育児休職中ですが、「仕事に復帰後は長男を保育園に預けるので、接種できるワクチンは任意・定期に関係なくすべて接種している」といいます。

複雑なスケジュールをどう乗り切っているのでしょう。生後1カ月過ぎに保健師が訪ねてきた際、「ワクチンの種類、任意と定期の接種の違い、接種回数、生ワクチンの意味などを説明してくれたけど、2カ月に満たない頃はまだ眠くてボーッとしてたし、さっぱり頭に入らなかった」。
たまたま、出産前に切り抜いておいた予防接種の新聞記事があったのを思い出し、読んだそうです。記事の中でスマートフォンで使える「予防接種スケジューラー」というアプリケーションソフトが紹介されていたので、スマートフォンにダウンロードし、スケジュールを管理しているそうです。

彼女の長男が生後2カ月以降、生後6カ月ごろまでにワクチン接種と乳児健診を受けた日時(予定含む)をまとめました。

1月30日 ワクチン接種(4種類)※複種類混合のワクチンも「1種類」とカウント 
2月28日 ワクチン接種(4種類)
3月26日 3,4カ月健診
4月13日 ワクチン接種(2種類)
4月25日 ワクチン接種(2種類)
5月27日 ワクチン接種(1種類)
6月 5日 ワクチン接種(1種類)

「名古屋にいたころ、打てるワクチンはまとめて打ってもらっていたので、私は少ないほう」といいますから、通院回数がもっと多い人もいるのでしょう。

私の息子が9月まで米国にいたと仮定して健診と接種がいつになるのか、比較のために書いてみました。

5月17日 2カ月健診+ワクチン接種(6種類)
7月9日  4ヶ月健診+ワクチン接種(6種類)
9月?日  6ヶ月健診+ワクチン接種(2~6種類)※ワクチンの種類や打つ時期によって増減

子供がワクチン接種を受ける時期に引越ししたこともあり、名古屋と厚木の2市を比べると、任意のワクチン接種料の自己負担額が自治体によって違い、まとめて接種を受けることに対する考え方が医師によって違うことに驚いたそうです。

任意接種になっているロタウイルスのワクチン(2本、もしくは3本接種)の合計接種料が名古屋では助成があったために1万3000円未満だったのに、厚木市では1万3000円だったそうです。名古屋の小児科医がやっていたワクチンの同時接種を厚木の小児科の医師に頼むと「同時接種は推奨してない。どうしてもというのならやります。うちでは責任取れませんが」と言われたそうです。「今大流行の風疹もそうだけど、ワクチン接種は大切な事なのに個々(親)の判断に委ね過ぎなんじゃないかと思う」と胸のうちを明かしてくれました。

乳幼児健診をあわせた接種スケジュールと、ほぼ無料の接種料、未接種の場合の集団生活を制限というペナルティーの仕組みを取り入れる米国。かたやスケジュールは親が全部把握し、任意接種だと1本1万円以上するワクチンもあり、未接種の場合のペナルティーのない日本。集団の免疫をつけて感染症の蔓延と死亡者を防ぐという目的は同じなのに、なぜこうも違うのかと、思わずにいられませんでした。

錦光山雅子 (きんこうざん・まさこ)

1972年生まれ。98年から朝日新聞記者。埼玉のベッドタウン育ち。山形、石川、秋田と日本海側3県で記者修業した後、自治体の仕事や、医療福祉、生活の分野などをカバー。今年9月から「人生40周年記念」と題し、米ハーバード公衆衛生大学院へ1年間の研究留学。社会と健康の関係について掘り下げ中。恋しいのは風呂。食べたいのはサンマの塩焼き

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