ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  EXP×1000 作者:avu
兄は逞しい、弟は…
「なぁ岩竜の目ん玉って二つあるだろ」
「そうだな」
馬車に揺られながら、ライ兄さんがフイ兄さんに話しかけた。

「一つは王様に献上して、もう一つはどうするよ」

「そりゃ、売るだろ。一つ1億㌱で買い取ってくれるらしい」

「…食べたら美味しいかな」

「目ん玉がうまいわけないだろ」

いくら暇だからって、会話の内容がひどすぎる。

いつもこんな会話をしているのかと思うと、悲しくなる。

私達4人は今、馬車に揺られながら【秘宝の眠る海岸】へ向かっている。

海岸は城より北に百キロ進んだ場所にある。

とりあえず、今日は馬車に揺られること以外にやることがない。

そろそろ尻が痛い。



「ライ、お前は痔を経験したことあるか?」フイ兄さんが真面目な顔をして聞く。

「ないけど、なんだよ急に」

「痔は痛いぞ。ならないためにたまに尻を浮かせとけ」

「…わかった」
ライ兄さんが戸惑いを隠しきれない顔で答える。

しばらく沈黙が続いたが、ライ兄さんが勇気を出して聞いた。

「フイ、お前痔なのか?」

「そうだが。何か?」

「いや、別に、いいんだ」

会話もひどいが、空気もひどい。

「そうだ、目を売ったお金でみんな何を買う?」
私は空気を打ち破るため話題を提供した。

「俺は新しい盾でも買おうか」
ガリクさんが答る。

この人のスキルからして、かなり質のいい盾を装備するだけで相当な使い手になるのではないかと思えてしまう。

私が言えた義理ではないが、いいスキルだ。

「俺はあれが欲しい!!
〈不浄の剣〉が。」ライ兄さんが興奮気味に言う。

「あれは4000万㌱もする高級品だろ」

<不浄の剣>は戦いに疎い私でも聞いたことがある。
確か、毒系スキルを格段に強化する武器だ。
4000万もするのか。


「一人あたりの分配は2500万㌱だろ?
そこでさぁ、フイ。
1500万貸してくれ!!
こんなまとまった金が入ることなんて滅多にないし、頼むよ」

「いいよ。
俺の欲しいものは1000万あれば充分だし」

「ありがと、フイ!!
じゃあ岩竜狩って、サイの婚約パーティーが終わったら、
『パルクマーケット』へ行くぞ!!」

話に出ないから不安だったが、一応私のことは頭にあるようだ。
『パルクマーケット』か、世界一のマーケット。

私達が住むハービン王国の誇る最大の市場『パルクマーケット』。
食糧、武器、書物、ここにないものは何もないと言われるほどのものだ。

場所は、城より西に30キロ離れた、砂漠の街ゴンゴにある。

兄達は国中のダンジョンを周っているから、マーケットには何度か行ったことがある。

その度にライ兄さんが私にトカゲの姿干しを買ってくるのだ。
滋養物らしいが、いわゆる嫌がらせと言うやつだ。

父さんが隠れて食べていたが、あっちのほうの元気がないのだろう。

私もお金が入ったらマーケットに行ってみようか。

素振りも凄いレベルまで来たし、いい剣を使う権利はあるだろ。







「着きましたよ」
いつの間にか眠りについていた私達を、御者が起こした。

外に出ると、どうやら日を跨いで朝となっていた。

そして目の前に広がる海。

そういえば、海を見るのは初めてだ。広く、青く、少し怖い。
そんな印象を持った。

「あれが【秘宝の眠る海岸】だな」

フイ兄さんが指差す先には洞窟があった。
海岸のそばに、地下へと潜る洞窟が一つ。

どうやらこれが【秘宝の眠る海岸】の入口らしい。

「これから洞窟へ入る。
夕方には満潮になるため、それまでに岩竜を狩る。
俺の[千里眼]でモンスターとの遭遇を避ける。岩竜を見つけ次第戦闘に入るが、半径200m以内に他のモンスターが近づいた場合は即戦闘離脱だ」

「わかった」

全員が同意した。

そして私は今、初めて兄がかっこいいと思えた。



洞窟の中へはフイ兄さんの先導で入った。

入り口の小さい洞窟だったが、地下へと進んで行くうちに空間は広くなり、降り切った場所は広大な空間が広がっていた。


天井は30mの高さがあり、所々から地上の光が射し込む。

光は足元の水に反射して、洞窟の中は青く光る幻想的な空間となっていた。

何本もの岩の柱が天井を支え、まるで人工の建物のような頑丈さがある。


青い光はあるが、奥は全く見えない。

光源魔法の使い手がいないかぎり、道はフイ兄さんに頼るしかない。

「左へ進む」
[千里眼]を発動したフイ兄さんの導きで私たちは歩を進めた。


岩竜を探すというより、他のモンスターから逃げるように進んで行く。

流石はAランクのダンジョンともあり、あのバカな兄たちも緊張を隠せないでいた。

足元の水にも体力を削られながら、私達は洞窟を一時間ほど歩く。


「この先に岩竜がいるかもしれない」
ようやくの吉報に私達は素直に喜んだが、

かもしれない?
少し気になる言葉だ。

フイ兄さんの[千里眼]は見ようと意識した範囲を見ることができる。
(現在の実力では半径600mが限界)

そして今は、半径500mに視野を広げ、敵との遭遇を避ける一方で岩竜の捜索も行っている。


フイ兄さんがいなかったら一体どうなってたのだろう、兄達には本当に大きな借りができてしまった。


「装備はいいか?」
フイ兄さんが最後の確認をする。

緊張のため、全員が声を出さず、首を縦に降った。


フイ兄さんの報告から、歩くこと500m。

ようやく岩竜が目の前に現れた。

兄の、かもしれないという発言の意味がようやくわかった。



でかい!!

とにかくでかい。
天井ギリギリまでの体高をもち、50mはある胴体。

体は岩でできており、一見すると岩でできた巨大な竜の彫刻に見えてしまう。

足は短く、体が地面にほぼ接触している。

そして胴の先をたどると、青く輝く目をつけた顔にたどり着く。


「こんなのどうやって戦うんだよ」ライ兄さんが絶望気味に言った。

フイ兄さんもガリクさんも言葉が出ず、沈黙するばかり。

今まで自分たちが対峙してきたモンスターとの差に驚いているのだろう。

岩竜は私達に気がついたが、その動きは非常に遅く、背後から迫った私達に向き変えるにも一時かかった。

その間、いくらでも攻撃する時間があったが、圧倒されて動けない。

体が凍りつくとはこのことだ。




「無理だ、桁が違いすぎる」
フイ兄さんが膝をつけ、脱力した。
ライ兄さんもガリクさんも続く。




…私も怖い。泣きそうだ。
でも、兄達のおかげでここまで来れた。
ガリクさんも来てくれた。

私は剣を抜き、力強く握り締めた。

「兄さん達は下がってて。

後は、【山割】サイ・アルレリックがひき受けた!!」










評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。