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最終更新:2013年6月21日(金) 20時5分

精神疾患で労災認定、過去最多に

 仕事が原因でうつ病などの精神疾患を発症し、労災を認められた人が、昨年度、過去最多となりました。これは前の年度の1.5倍以上です。背景には何があるのでしょうか。

 「ただただ信じられないという気持ちだけでした」(夫を自殺で失った中原のり子さん)

 東京都で薬剤師として働く中原のり子さんは、14年前、夫を自殺で失いました。白衣を着て大勢の子どもたちに囲まれる夫・利郎さんは、小児科の医師でした。患者に優しいと評判で、家では3人の子どもの良き父でした。

 「(家では)椅子を殴りつけたり、自分がこのままでは病院に殺されるというようなことを言っていました」(中原のり子さん)

 経営効率化のため、勤めていた病院が医師を減らしたことで、利郎さんは月に8回の当直をこなしていたといいます。利郎さんが残したメモには・・・

 「精神的にも身体的にも限界を超えてしまいました」

 こう書き残し、敏郎さんは真新しい白衣に着替え、病院の屋上から飛び降りたのです。44歳の時でした。

 厚生労働省は21日、昨年度、仕事が原因で「うつ病」や「PTSD」などの精神疾患を発症したとして1257人が労災を申請し、このうち475人の労災が認められたと発表しました。認定件数は前の年の1.5倍で、2年連続で過去最多を更新しています。

 「仕事の全体像や意味を考える余裕が職場になくなっている現象が、『心の病』の増加と関係している」(厚生労働省の会見)

 また、自殺や自殺未遂で労災認定された人数も前の年の1.5倍の93人となるなど、深刻な状況です。

 川人弁護士は、職場のストレスによって精神的な疾患を抱えた人たちの相談を多く受けてきましたが、厚生労働省が労災認定した人数は氷山の一角に過ぎないと指摘します。

 「職場の中で行われていることは社会にオープンにならない。(労災認定の人数より)はるかに多くの何千人という単位で、仕事の影響を受けた患者さん、うつ病の患者さんがいるし、自殺もいる」(過労死問題に詳しい川人博弁護士)

 川人弁護士は、この20年ほどの日本経済の停滞が長時間労働やパワハラなどのいじめが横行する環境を作り出していると指摘します。

 「この人は11月に自殺で亡くなる。夜遅くまで毎日残業していた。6月30日から8月6日までの38日間、1日も休みがない」(過労死問題に詳しい川人博弁護士)

 この男性(24)は、入社2年目の夏に長時間の労働による過労と睡眠不足から体調を崩し、「うつ病」と診断され、その3か月後に自ら命を絶ったといいます。また、職場で上司から“いじめ”を受け、精神疾患となった30代の営業職の男性は、ノートに上司から受けた“いじめ”を書き留めていました。

 「お前は足を引っ張ろうとか顔に泥を塗ろうとしかしない。お前のせいで俺と社長がアホと思われる。どう落とし前をつけるのか?」
 「なぐるけるの暴行」「口が切れ血」「いたい」(上司から“いじめ”を受けた男性〔30代〕のノート)

 この男性はおよそ1か月後、電車に身を投げ、自殺しました。

 「働いても上司から褒められない、逆に成果がないと上司から叱責を受ける。上司は経営者から叱責を受ける。日本はこの10年20年の経営の難しさが職場のストレスにつながっている」(過労死問題に詳しい川人博弁護士)

 東京・池袋の会議室。ここで月に1度、あるセミナーが開かれています。参加しているのは企業や団体の人事・労政の担当者。職場での「心の健康」をどう保っていくのか、講師の話に耳を傾けていました。

 「私たちの目が届かないところでいろんな事例が起こっていると思う。全然取り組んだことがない会社なので」(製造小売業)
 「(精神疾患に)なってからでは遅い」(IT企業)

 セミナーの運営会社によりますと、今、社員の「心の健康」を問題視する企業が増えていて、セミナーへの依頼は、10年前と比べ、10倍以上増えたといいます。

 夫を失った中原さんは現在、過労死を防ぐ会の代表として活動しています。労働者を守るためには新たな法律が必要だと指摘します。

 「絶対(過労死者を)増えさせたくない。今はそういう思いです。政府は至急、(過労死者を)増やさない手だてを取るべきだと私たちは国に強く訴えていきたい」(東京過労死を考える家族の会 中原のり子代表)
(21日18:31)

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