NNNドキュメント

見どころ

家庭の中でおきる殺人事件。その割合は高く、２０１０年度では過半数を占める。
残された者たちは殺人者の家族として、さらには遺族として社会から孤立していく。
だが、これまでその姿が伝えられることはなかった。
広島のごく普通の家庭に生まれた一人の少年。最愛の母を殺したのは、父だった。
過酷な運命に翻弄されながらも、父と母との絆を必死に探し求める青年は、
実名とその姿をさらし、死刑制度と遺族の現実を世に問うことを決意した。
親が子を殺し、子が親を殺す事件が絶えない今、彼の姿を通して、改めて親子の絆を考えたい。

内容

大山寛人さん（２５）。小学６年生だった１３年前の３月の夜、父から夜釣りに誘われ車で出かけた。助手席に座っていた母はなぜか動かない。父は「眠っている」と話した。釣りの最中、何かが海に落ちた音がした。ほどなく母は、海で遺体で見つかった。

寛人さんの父親、大山清隆死刑囚。妻を浴槽で溺死させ海中に遺棄した。
その２年前には、養父の頭を鉄アレイで殴った上、車に乗せ壁に激突させて殺害。
いずれも保険金を騙し取っていた。母が殺された事件から１０か月後、父は逮捕された。
その日を境に寛人さんの生活は一変した。“人殺しの息子”と呼ばれた。高校は３日で中退。
野宿をしながら盗みを繰り返し、鑑別所にも入った。
自傷行為のすえ、大量の睡眠薬を飲んで自殺を図った。自らの境遇を呪い、ひたすら父を憎んだ。
逮捕から３年半後、寛人さんは一審で父に死刑判決が下ったことを知り、初めて拘置所を訪れる。
これまでの苦しみや憎しみをすべて父にぶつけるために。
しかし、面会室のガラス越しに見た父は、別人のようにやつれ果てていた。
“父は己の罪を悔やみ苦しみ続けている。”
苦悩と葛藤の果てにたどりついたのは、“生きて罪を償い続けてほしい―”という思い。
一昨年、最高裁で上告が棄却され、死刑が確定した。

寛人さんは今、故郷を離れて暮らしている。どこに行っても父親が死刑囚という現実はついて回る。
仕事はクビになり、交際していた女性とも別れざるをえなかった。
やっと見つけた今の仕事は、風俗店の店員。食べていくためには夜の仕事しかなかった。
それでも今は父の存在が生きる支えだ。
拘置所の父とは手紙のやり取りを続け、年に数回は面会にも行く。
安部政権発足後、相次ぐ死刑執行のニュースに不安を覚える。「その時」は遠くないかもしれない。
「父には1日でも長く生きてほしい」と話す。
ある日、寛人さんの元に母の形見が届いた。母が愛用していた手帳。
事件の１週間前だった寛人さんの誕生日には、星のマークが記されていた。
初めて手にした母の生きた証に、封じ込めていた思いがあふれる。死ぬ間際に自分の名前を叫んだ母。
平凡で幸せだった日々、助けられなかった自責の念、そして母を殺害した父を受け入れていることへの罪悪感…。母の無念と父の犯した罪を一身に背負い、その狭間で葛藤は続いている。
そんなある日、父から再び手紙が届いた。
“現世に未練が残るから、もう面会には来ないでほしい―。”

キャスト

ナレーター：高川裕也