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第1章 1-2
 すべての人は、前世のおこないにより、運命を背負ってこの世に生まれくるといわれます。
 占いは、生年月日や血液型のような、自分では決められない『運命の印』を分析することによって、その人がどんな運命を背負って生まれてきたのかを予測する学問です。
 昔のように、富や家柄だけで『一生の仕事』や『人生』が決められていた時代なら、運命は『絶対』ですが、現代では、みなさんの努力しだいで運命を自由に変えていくことができます。
 ですから、自分の欠点やつらいできごとを、運命だからといって、あきらめないで、克服する方法をしっかり考えてほしいです。
 それが占いの正しい活用法だといえるでしょう。

 ――ふっと目が覚め、自室にあるテレビを着けたら、朝の占い番組がやっていた。
――恋占いやおまじないの類は『高校生』になった今でも、絶大な人気を誇っている。

ドキドキ心理テスト。~あなたの愛情・友情がわかる。
好きな人がいるのに、なかなか告白ができない。
友達がほしいのに、話しかけられないといった経験はありませんか?
 そんなあなたにオススメするのが、この『ドキドキ心理テスト』です。
 これで、あなたの愛情や友情についての本音をチェックしておけば、恋人も友達も、かならず見つかるはずです。
あなたのラブストーリーは?
恋愛は、誰にとってもオリジナルの物語です。
あなたのラブストーリーは、どういうものになるのでしょうか。
*①の質問からはじめて、答えが指示する『番号』の質問に、それぞれ進んでいきましょう。

 ①毎年、バレンタインデーやホワイトデーのときに、家族にプレゼントを贈っている?
 ・贈る――②
 ・贈らない――③

②初対面の相手と話するときに、しっかりと相手の目を見て話すことができる。
 ・できる――④
 ・できない――⑤

 ③誰かにプレゼントを贈るときは、ラッピングと中身のどちらに気をつかう。
 ・ラッピング――⑤
 ・中身――⑥

 ④予定が二つ重なってしまったら、遊びとじゅくのどちらを優先する。
 ・遊び――⑦
 ・塾――⑧

 ⑤お弁当を持って遊びに行くとしたら、サンドイッチとおにぎりのうち、どちらを選ぶ。
 ・サンドイッチ――⑧
 ・おにぎり――⑨

 ⑥昔話の桃太郎と金太郎のうち、一緒に遊ぶとしたら、どちらを選んでいきたい。
 ・桃太郎――⑨
 ・金太郎――⑩

 ⑦世界一周旅行に出かけるとしたら、船と飛行機のうち、どちらで行きたい。
 ・船――⑫
 ・飛行機――A

 ⑧生まれ変わるとしたら、イヌとネコでは、どちらに生まれ変わりたい。
 ・イヌ――⑦
 ・ネコ――⑪

 ⑨遊園地のお化け屋敷とジェットコースターでは、どちらで遊びたい。
 ・お化け屋敷――⑩
 ・ジェットコースター。――⑪

 ⑩映画を見るときは、ビデオと映画館のうち、どちらで見たい。
 ・映画館――⑬
 ・ビデオ――E
 ⑪手紙を書くとしたら、昼と夜では、どちらに書くのが好き?
 ・昼――⑫
 ・夜――⑬

 ⑫テレビ番組では、バラエティーと、ワイドショーのうち、どちらをよくみる。
 ・バラエティー。――B
 ・ワイドショー。――C

 ⑬友達や家族の誕生日は、いつ訊ねられても、答えられる。
 ・答えられない――C
 ・答えられる――D

 お待ちかねの診断結果。

A――ドラマチックな熱愛。
 ・あなたは、とても情熱的な恋をする人です。
・一目惚れしやすく、好きになった瞬間から、相手に夢中になり、他のことは目に入らないほどの、激しい恋に落ちやすいでしょう。
 ・短期間のあいだに、熱い恋の炎は燃え上がります。二人のあいだに障害があればあるほど、その情熱は激しくなって行きそうです。
 ・ただし、あなたには熱しやすく、冷めやすいところがあります。恋を長続きさせるためには、常に新しい刺激をつくりだす努力が、必要かもしれません。

 B――冒険エンジョイタイプ
 ・あなたは、冒険を楽しむかのように恋愛をとらえ、どうしたら二人で楽しく、過ごすことができるのかということを、たえず考えています。
 ・恋愛に対して、とても自由でおおらかな考えかたを持つ、あなたのラブストーリーは、、まるで、爽やかな青春ドラマのようです。明るく、清々しい恋をすることでしょう。

 C――プラトニックな純愛タイプ
 ・あなたは、恋に対しては純粋で、幼い子供のような、素直な気持ちで、人を好きになるタイプです。
 ・特に相手の気持ちを大切にし、ゆっくりとしたペースで、恋を育てていくでしょう。あなたのラブストーリーは、純愛で初々しい、初恋のようなものになりそうです。
 ・ただし、相手の気持ちを大切にするあまり、大事な一歩が踏み出せずに、肝心なところで恋を逃してしまうこともあります。
 ・相手のことを気にし過ぎて、躊躇ためらってばかりいずに、時には自分の気持ちに素直になることも必要でしょう。

 D――空想ロマンチストタイプ。
 ・あなたは常に一途いちずな恋をするタイプです。
 ・相手や恋そのものを、理想の姿や形だと思い込み、自分なりのラブストーリーを思いえがいてしまうロマンチストでしょう。
 ・相手のためなら、自分の身を犠牲にしてでもといった、静かで、力強い情熱を秘めています。
 ・しかし、あまりに献身的になり過ぎて、自分が疲れてしまうこともありそうです。
 ・また、夢と現実の区別がつかなくなり、『恋に恋』してしまうだけで、終わってしまうことがあるかもしれません。
 ・夢や理想を追い求めるばかりではなく、現実をしっかりと見つけることが大切です。

 E――個性的マイウェイタイプ。
 ・あなたはきわめて個性的で、マイペースな恋愛をするタイプです。
 ・お互いが相手の生き方に『共感』し、二人だけの理想や希望、あるいは秘密を『共有』するところから、恋がはじまっていきそうです。
 ・あなたのラブーストーリーは、二人の人生観や考え方を調和させて、無意識のうちに、神秘的な絆で結ばれていくといったものでしょう。
 ・ただし、外の世界を知らないでいると、お互いの成長を妨げることにもなりかねません。
 ・自分たちで作り上げた『狭い世界』に囚われないで、視野を広げることが大切です。

占いとは、現代に根付く『魔術』の一種である。
魔術師の世界でもっとも必要されのは『集中力』ある。
座禅ざぜんを組み、精神を統一するという修行方法がある。
 そして少年は集中するのが、得意だった。
 一度本を読みだした――まるでまわりのことが目に入らなくなる。
 それほどまでに、異常な『集中力』を生み出す、精神疾患。
 すなわち『先天性集中力過敏』という能力を持っッている。
 この能力は訓練しだいで、コントロールが可能になる。

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――あれはとても寒いクリスマスのこと。その日のボクは、ジージャンに、白のタートルネック。黒いパンツというカジュアルな服装だった。
「まったく、クリスマスなんて寒いばかりで、ろくなものじゃない」
 神哉は、ぼやきながら、空を見上げると、分厚い雲に隠れて、月も星も見えやしない。
「クソっ!」
 少年はいきなり毒づく、道端に落ちていた、空き缶を思いっきり蹴り飛ばした。
 ――ボクは、あてもなく夜の街を、練り歩っていた。風は身を切り裂くほど冷たい。
 ――そう言われてみえれば天気予報で、今日は『雪』が降るとか? 実に不愉快なことを、ほざいていやがったな。
 ――何がホワイトクリスマスだっ! ふざけるな。雪なんてただの自然現象でしかない。
――どちかといえば、降らないほうが……むしろ、嬉しいぐらいだ。
 ふっと神哉は時計を見ると、もう夜の九時を過ぎていた。街には不思議と人がいない。
 ここ、クリエは眠らない街だと言われている。締め切りに追われたクリエイターが、『二四時間』『三六五日』。どこかで、だれかが、創作活動をしているからだ。
 多くの雑多ビルや、アニメショップが立ち並び。コスプレ系飲食店やら、ゲームセンターなど多数のオタク産業で、賑わいを見せている街であるにも関わらず、この静けさはなんだ。
 神哉は、そう思いながら夜道を歩いていると、大きな建物が現れ、さらにぱらぱらと『雪』らしきものまで、降ってきた。
しかもそれは『粉雪』というよりかは、どちらかとうと『みぞれ』っぽい。
 ――ボクは大急ぎで、短い階段を昇って、教会の敷地内に入ると、とても綺麗な讃美歌が聞こえ、ボクは導かれるように、軋む扉を、ゆっくりと開いていく。
 ――どうやら鍵はかかってないみたいなだ。
 ――ボクは教会の中へ――――。一歩、二歩、三歩と順に、足を踏み入れていく。
【空白。それはこの世界を、覆い尽くす見えない雲】
――室内だというのにひどく寒く感じられ、上着越しでも、痛いほど寒さが伝わってきた。
【雲は世界の真実を、覆い隠し、偽りの光で、人を惑わす】
 ――吐き出した息は、もちろん真っ白で、震える肩を両手で擦って、寒さを堪えながら、正面をじっと見つめた。
 教会内は薄暗い。豪奢なステンドグラスから射し込む、月明かりと、キャンドルの淡い光で、景色が浮かび上がっているのがわかる。
【雪をスノードロップの花に変え、人々に希望を託しましょう】
 左右に列をなす長椅子の間にある通路の先に、三段ほどの階段を昇ったところに、『祭壇』らしきものがある。
 ――そこに目を向けた瞬間、ボクは息をのみ、心臓が跳ね上がり、身動きができなくなってしまう。まばたきすら忘れそうになる。心臓の鼓動がぜんぜん鳴り止まない。
【希望と安らぎの光に包まれた、夢の楽園、それが天国】
 そこで歌てっていたのは、白いワンピースを着た小柄な『少女』。 
 ――祭壇の前にたたずんでいる後ろ姿は、荘厳で美しく、不純物の混じってない白い髪は、神の御使いを連想させるには充分すぎた。
 ――その厳かな空気を纏った光景は、とても現実とは思えなかった。つまりそれだけ彼女は美しく、幻想的だったということだ。
【絶望と孤独の闇に包まれた、哀しくせつない世界、それが地獄】 
 ――でもよく見ると……彼女が着ているワンピースは、とても質素なもので、それは彼女には不釣り合いだと感じたとき――――
「もしかして……」
 少女は、いっきなり振り返り、神哉の姿を見て、ハッと驚いた顔した。
「あなたは……わたしぃの存在が、認識できるの?」
 ――一点の曇りも無い、綺麗な顔が、透き通った笑みを浮かべ、小さく頭を下げる。その動きに合わせて、白い髪がさらりと揺れ。
「また随分と可笑しなことを言うものだねェ」
 ――その容姿だけでなく、相変わらず内面も、少しズレているらしく、思わず笑いそうになったほどだ。
「本当に……わたしぃの声が、あなたに届いているの?」
 彼女は困惑したような表情で、もう一度聞いてくるので、神哉は力強く頷き、頬を掻きながら、警戒心を与えないように、目つきを柔らかくし、相手の唇あたりに視線を落ち着かせると
 ――どうやら彼女は、ボクのことを覚えてないみたいけど……それなら、それでも構わない。もう一度『最初からやり直せ』ばいいだけの話だ。今度こそ、彼女を『神の呪縛』からとき放って見せる。
「ああ、もちろんさ。ちゃんと聞こえているよ。キミの美しい声が、ねェ」
 ――その肌は『初雪』のように白く、天使らしさを強め、さらに、その肌よりも白いワンピースに、白いスニーカ。そして白い大きな帽子を被っていた。
 ――ボクは小さく笑っって、彼女の名前を呼ぶ
「優歌」
「どうして、わたしぃの名前を知っているの? 昔どこかでお会いしたことがあったかしら」
「キミは忘れてしまったのかもしれないど、ボクは覚えている。ただ……それだけのことだよ」
 ふと、教会に静寂が訪れる。冷たい空気を肌で感じ、まるで時間すら止まったかのような、錯覚を覚える。現に祭壇に載せられた燭台しょくだいの炎が、まったく揺らめいていない。
「そこの愚かな人間。一つ忠告してあげるわ」
 その沈黙を破るように、頭上から少女の声が振ってきた。それは背筋がぞっとするほど、冷たくて、無機質な声。
「その女は、私たちの世界を滅ぼしかけた『魔王の娘』よ」
 神哉は反射的に、その声のする方へ、視線を向ける。
――まったく気が付かなかった。いつからそこにいたのか、いつ、どの瞬間に現れたのか。まるでわからない。
 ――しかも……まるで物理法則を『無視』するかのように、声の主は『宙に浮い』ていた。もちろん紐の類はなく、決してワイヤなどで吊るされているわけではないようだ。
 ――気だるそうに首を傾け、足を組んで宙に腰をかけている。
 ――実に不気味な少女である。
「何、わけのわかんないことを言ってんだ」
 ――薄気味悪い少女は、クスクスと、桜色の唇に指先をあてて、愉快そうに笑う。
 ――そして優歌はボク後ろで、何かに怯えるように、小刻みに震えていた。
 ――薄気味悪い少女は、まるでSM嬢が、履きそうなヒールの高い黒のロングブーツに、
形のよい胸元を彩るように編み上げられた黒のミニドレスも、すべてが『ソフトエナメル』で統一され、どこか現実離れしている。
 ――冬の夜とはいえ、顔以外はほとんど肌を露出させていないのは、ちょっと変な感じがする。今どきは、真冬でもミニスカートに、生足の女性…珍しくないせいかもしれない。
 ――ボクは、気負うことなく、一歩踏み出すと
「近寄るなっ! ゲスがっ」
「うっ!」
 ――少女の身体に纏わりつく、禍々しいオーラーに嫌悪され、ほとんど無意識に飛び出した言葉というか? うめき声を上げてしまう。
 ――薄気味悪い少女は一転、嘲笑を止め。表情が凍りついた。
 ――一見しただけでも、胸糞悪さが込み上げてくる、まさに人をイラつかせる、天賦の才能を持っているな。そしてなによりも――さっきからチラチラと背後いる優歌を、ゴミでも見るかのような、蔑む眼が気に入らない。
「わからなくてもいいわ。でもその女には気をつけなさい。決して心を許しは駄目。生き長らえたいならね」
 ――血のように赤い瞳が、ボクの心臓を射抜く。その肌は薄い桜色で、ひじまで覆うソフトエナメル製の手袋を身に着けた手で、耳にかかった漆黒の髪を軽く掻き上げながら
「大人しく引き渡してされくれれば、私は――アナタに危害を加えないと約束するわ」
 ――直感的にコイツは、ヤバイと感じたボクは、震える優歌の手を握り走りだす。全力で、優歌のか細い手を引きながら、教会の外を目指す。
 ――扉の前に来たボクは素早くノブを回す。アレ? 開かない。開かない。開かない。なんでだ。なんでだ。なんでだ。
 ――ふるえる手で……今度は鍵に手をかける。
 ――回らない。回らない。回らない。
 ――またノブを回そうとする。でもやはり……開かない。開かない。開かない。
 ――なぜだ、なぜだ、なぜだ。分からない、分からない。分からない。全然わからない。
 ――チラッと後ろを見ろと、
「ふふふ……おバカさん。逃げられると思った」
 ――漆黒の髪をはためかせ、ソフトエナメル製ドレスは、独得な光を放ちながら、白く細長い腕が伸び。ボク頭を、握り潰すかのような凄い握力で、持ち上げられ、身体が宙に浮く。
「ぐっ。ぐぅ~~~」
 手足をじたばたさせながら、神哉は、うめき声をあげると、黒衣の少女は、さらに強い力で頭を絞めつける。
「これで、わかってもらえたかしら」
「ふざけるな。お前はあの子をなんだと、思っていやがるだ。
 ちゃんと人間の格好をしいて、人間の言葉をいる彼女を、物みたいに、取り引きなんかできるか?」
「そう。まだ、抵抗するつりなの?」
「当たり前だろう。何度も言わすな、ボケ」
「どうやら、よっぽど命が惜しくないようね。なら、望み通りに殺してさしあげますわ」
 押さえ付けられたまま、地面に勢いよく叩きつけられる。
「ぐはっ!」
 ――口から血を吐き出し、もう内臓も骨も全身ボロボロだ。床にはまるで、クレータのような大きな穴が開いているし、生きているのが、『奇跡』なぐらいだよ。
 ――本当に丈夫な身体に、生んでくれた、母に感謝しなければならないな……これは――――
「やはりこの世界の人間は、脆弱ですわね」
 ――ボクを見下すように、蔑むようにそう呟いた少女は、遥か上空いるため……這いずり脚を掴むことすらできない。
 ――せめてもの抵抗として、相手を睨め返す。
「なんですか? その反抗的な眼は、虫けら分際で、気に入りませんわ」
 ――ハッキリ言って、息を、する、の、すら……めちゃ、めちゃ、苦しい。でもまだ、死にわけには、いなかない。彼女の分まで、生きるって、約束したんだ。
 ――だからこのまま、死ぬ、わけには、いかないんだ。
「やめって、お願い……わたしぃは……もうどうなってもいいから――――関係のない人を殺すのだけは……ヤメテ――魅琶子が……ほしいのは……わたしぃの……ちからの……はずでしょう」
 ――魅琶子。どこかで聞いたことのある名前だ。それがあの女の名前か?
 ――涙で濡れた白いワンピースは、身体に張り付いており、震える身体をおさえ、気丈に振舞っている彼女は――素直に美しく、まるで可憐に咲く『薔薇』のようで、凛としている。
 それを見た罪錬慈は吐き捨てるように
「黙りなさい。道具の分際で、私に意見するなって、これはキツイお仕置きが必要かしら」
 罪錬慈の腕に抱きかかえられ、熱気を帯びた優歌の肌に触れ、白いワンピースは無残に破かれ、白い肌が露になる。
「だっさい下着」
 飾り気もない白い下着を、罪錬慈は鼻で笑った。
 あまりの羞恥に、頬をカァッと、熟したトマトのように、赤く染めていく。
 カタカタと震えあがる優歌の、白く美しい髪を思いっきり引っ張り上げ、罪錬慈は、怒鳴りつけ、優歌を拘束した。
 ――あられもない姿にされ、惨めな思いをしているはずなに、それでも……優歌は、歯を食いしばり、なんとか、気丈に振舞って、叫ぶ。
「無関係な人間を、これ以上巻き込むと、言うのなら、わたしぃも『死』にますぅ。
 そうしたら、あなたはもぅ、神々たちを殺せなくなるわょ。それでもいいのかしら」
「それは……本気っ、ですか?」
「ええ、本気よ。我が一族には、己を縛り戒める。死の言霊があります」 
「本気なんですね」
「ええ、あなたがっ……罪のない一般人を殺すと言うなら、わたしぃも死にます」
「分かりました。では彼には、死よりも辛い、苦しみを与えることにしましょう」
 ――彼女には魔王リリスの血が流れている。優歌は生まれながらにして『魔王』だった。
 ――こうなることは最初からわかっていたのかもしれない。結局ボクは……また、何もできずに……彼女を失うのか? そんなのは嫌だ。絶対イヤだ。
「……殺す……」
 ――眉毛が吊り上がり、眼付きが、さら鋭くなっていた。どうやらボクは、かなり怒っているようだ。それもかなりのマジギレようだ。
「まだ喋れたのですか? しぶといですね。でも安心してください。状況が変わりました。
 アナタには死ぬよりも、ずっと辛い『呪い』をかけることにしまったから、うふふ」
 罪錬慈は突然、右腕を天空に掲げ、呪文のようなものを唱えると、腕に刻まれた呪いのルーンが光出し、ぽっと、白い煙が、神哉の身体を包むと
「ぶひ、ぶひ、ぶひひ、ぶひ。《キサマ、ボクの身体に何をしやがった》」
「ふはははは。これは傑作ね」
 罪錬慈はどこからともなく、鏡を出し……神哉の姿を映す。
 ――まるで『豚』のような身体になっていた、ぶひ。イヤ、豚そのものと言ったほうがいいか? ぶひ
 それはピンクのとても可愛らしい『豚の姿』だった、ぶひ。しかも『ぶひ』……しか、しゃべれない、ぶひ。
 ――なんじゃこれは、ぶひ。そうボクは、本物の『豚』になってしまったようだ、ぶひ。
「キャア」
 ――困惑していると今度は、魅琶子の悲鳴らしいものが聞こえてきた、ぶひ。
 ――そちらに視線を向けて見ると、見間違うはずのない妹の黎奈いた、ぶひ。
 ――右頬から赤い血を流すヘルメス、ぶひ。
 ――黎奈に手には聖なる炎を纏った、『退魔の剣』が握られていた、ぶひ。
 ――おそらくアレで斬られたのだろう、ぶび。
 落下する優歌を受け止めるために、神哉は全力で走りだしていた。
床に衝突する直前……神哉は、身をていして優歌を受け止める。
「ぶひ、ぶひひ、ぶひ《大丈夫? 怪我はない、痛いところはない》」
 優歌は、自分の身体を見まわし、大した怪我がないことを確認すると、起き上がり、申し訳なさそう頭を下げ。
「ごめんなさい。『ぶひ、ぶひ』言われても、さっぱりわからないわぁ」
 ――この身体では、意思疎通も満足に行えないのか? ぶひ。 困った、ぶひ。でもこれは、これであり、ぶひ。だってこの姿なら、可愛い女の子と一緒にお風呂に入っても……きっと許されるだろうし、ふひ。
 ――偶然、着替えを覗いてしまっても、きっと大丈夫なはず、ぶひ。
「罪錬慈。巫の大切なお兄様に、『豚』に変えるとは許せません。いますぐに元のカッコいいお兄様に、戻しなさい」 
 ――鋭い声が聞こえ、思考が中断され、再び、黎奈の視線を戻す。神秘的で、切れ長く吊り上がった『緋々色金ヒヒイロカネ』瞳が、ヘルメスを睨めつけいるけど
「残念ながら、それはできないわね。だから素直に諦めなさい」
 罪錬慈は、まったく動じることなく、高圧的な口調で、言葉を放つと、黎奈は、薔薇の花びらのように、みずみずしい紅唇を、固く引き結ばれている。
 ――身につているのは、いつもの『巫女装束』、だが、袖部分をまくるように『たすき』がかけられ、袴と同じ緋色をした、布製の小手をしている所が、『戦装束』のようにも見える、ぶひ。
 胸元はキュッと締められ、腰を包み込む緋袴の丈は、動きやすいように短い、ぶひ。
 白足袋に草履を履いているのが特徴だ、間違いなく妹の黎奈れいなじゃないか? ぶひ
 黎奈と罪錬慈は、激しい攻防を繰り広げ始める、金属と金属がぶつかる音。
 罪錬慈は、大鎌のような武器を振り回し、黎奈は、聖なる炎を帯びた退魔剣で応戦する。
「ぶひ、ぶひひ、ぶひ。《一体どうなってるだ》」
「ごめんなさい。今のわたしぃ力では、あなたを『元の姿』に戻してあげることはできないの」
 優歌は、神哉を優しく抱き締めた。
 ――まるで温かな、お布団に包まれているみたいな、幸せを感じながら、ボクは
「ぶひ、ぶひぶひ、ぶひっ。《キミが気に病むことじゃないさ》」
「無関係なあなたを、巻き込んでしまって、本当にごめんんさい」
 ――彼女の目からこぼれた、涙が……ボクの身体にこぼれ落ちると……身体中に燃えるように、熱い熱い熱い熱い熱い、ぶひ。
 ――何か得体のしれない『モノ』が、身体の中で暴れているような感覚、ぶひ。
「うぁぁぁあああ!」
 神哉は、凄まじい叫び上げ、床をのたうちまわる。
 ――身体中が、引き裂かれるような痛み。血管が沸騰して焼けるように熱い。
 ――自分の体に一体何が起こっているのか? 自分でもわからなかった。
 ――ただただ苦しくて、のたうちまわって、叫びことしかできなかった。
「今度は、お兄様に何をしたんです、ヘルメス」
 ――朦朧もうろうとする意識の中で、微かに黎奈の声が聞こえた気がした。
「私は何もしていないわ。勝手に苦しみだしただけよ」
「そんな白々しいウソを……巫が真に受けるとでも」
 ――頭が痛い、痛い痛い痛い痛い痛い、割れる、砕け散る。
 ――全てが……歪んで見える……感覚が狂う。五感が狂う! 
 ――そして気がついた時には、元の姿に戻っていた。もちろん服もちゃんと着ている。
「よかったですわ」
 ――どこか安心したような黎奈の声が聞こえてきた。
だが、その一瞬の隙をついて、ヘルメスは黎奈をふっとばし、全身からにじみ出ている、禍々しいオーラーが、大鎌に収縮してゆく。
 より禍々しくなった、大鎌の切っ先が、神哉の首をとらえ、切断される瞬間。
「アイギス」
 ――ボクの頭に当然、『呪文』のが浮かび上がり、思わず、それを、唱えてしまう。
 ――パキンという金属が折れる音が聞こえ、見ると……大鎌の刃先が折れている。
 ――まるで、見えない壁のようなモノに、ぶち当たり、その衝撃を受け止めきれず、折れたようにも見える。
「まさか、私の愛鎌『フェザーサイズ』が折られるとは……信じられません」
 驚き固まっている罪錬慈に向かって、神哉は威勢よく叫び声を上げる。
「キサマはなんで、優歌の力を借りてまで、神々を滅ぼそうとしている。答えろ」
「世界を黒に、闇に染めるためですわ。それ以上のことは、きっと聞いても、到底理解できるとは思えません。話すだけ時間の無駄ですわ」
 ――その毒舌極まる言動は目に余るか、なぜだろう……その言葉からは、耐え難い悲しみと、絶望的なまでの『孤独』を感じた。
 ――ボクの耳は、その言葉の震えから、瞬時に感情を『正確』に読み取ることができる。
 ――だからそれが、『演技』でないことが、痛いほどわかった。
「どうして、そんな悲しいことを言うんだ。キミには心配してくれる仲間は、家族はいなのか?」
「ふふふ。こんな醜く、不条理な世界など……いっそのこと滅んだほうがいいのよ。家族は、みんな殺されたわ、惨めに震えている、そこの女の所為でねえ。
あとは私には仲間などいない。必要ない。
私は、アナタたち虫けらと違って、独りでなんでも、できますから、ね」
 罪錬慈は神哉の言葉を嘲笑う。
――やはりコイツを人をイラつかせる、天賦の才能を持っているらしい。一瞬でも可哀想だと思ってしまった、自分が憎らしい。
 ――あの様子だとやはり彼女は『暁の太陽』の一員ではないみたいだな。とすると、
 考えられるのは、例のプロジェクトの被験者体ぐらいか? なら身体のどこかに変異があるはずだ。それが何よりの証になる。
「まったく隙だけですわ」
 罪錬慈は、素早く地面を蹴り、折れた大鎌で、神哉の息の根を止めようとする。
 しかし、いかに隙を突こうと、瞬時の判断力、集中力のみで、あっさりと状況を引っ繰り返すことができる。
 生死を分かつ緊張感の中でも、迅速かつ、的確な行動選択を可能にするほどの、異常なまでの集中力を生み出す、ことのでる彼――なら、それが可能だ。
 状況を把握するより先に、状況に対処する才能を持って生まれた――彼なら。
「調子に乗るな。奴隷の分際で……春桜衝撃斬はるざくらしょうげきざん
 手から無数の桜が飛び出し、その一枚一枚が炎へと変わり、鳥の形を形成して、罪錬慈を襲う。
「そのしゃべり方、この力。まさか? 漆黒の魔導師シン・アルディオなのか」
「久しいな、我が奴隷、イシュトバンよ。まだそんな世迷言を言ってるのか? 
彼女の力を使って、もし神々を滅ぼしたとして、その先に、一体何がある?」
「うるさい。貴様の戯言などに、惑わされるか」
「罪錬慈。あなたは、お兄様の心の奥深くに眠っていた『悪魔』を呼び起こしてしまったようですね」
「漆黒の魔導師シン・アルディオ……わたしぃは彼のことを、とてもよく知ってるわぁ。
 彼とアナタが争い必要なってないはずよ。彼の優しさをアナタが誰よりも知っているはずよ」
「うるさいうるさいうるさい」
「相変わらず無駄な動きが多いな」
 ――無理な体勢から振り上げた鎌のかわし、素早く懐に潜り込み、がら空きになった腹に、ボクは軽く触れ、衝撃魔法を流し込んでやった。
 ――するとイシュトバンの手から『鎌』が抜け落ちた、それをボクは足で蹴り飛ばし。
 ――膝をつき、そのまま床に倒れ込んだイシュトバンを見下し、不遜な態度で言ってやる。
「キサマはボクに敗北し。そして隷属し、奴隷なったはずだ。そのことを、忘れたとは言わせんぞ」
 ――床を這いつくばっているイシュトバンの身体を、素早く拘束する。
「……奴隷って……お兄様。あなたはやっぱり酷いですね。女の子を奴隷にするなんて、男の子のやることじゃないです」
「離しなさい、その汚い手を……それから女の子に、そんなことを聞かないでください」
 ――無駄な力が入り過ぎているから、すぐに疲れる。まだ数分も経っていないのに、この有り様だ。玉の肌はしっとりと汗ばみ、綺麗な黒髪が張りついており、息も荒い。
「光を奪いなさい、エクリプス」
 その叫びと共に術式が発動し、辺りが真っ暗になる。世界から光が消えたみたいに、闇が深まり、罪錬慈への拘束が一瞬ゆるむ。
 その隙をついて罪錬慈は、闇に紛れ込む。そして四方八方から罪錬慈の声が鳴り響く。
「私に奥の手を使わせるとは、さすがは漆黒の魔導師ですわ。
今日の頃は、アナタとの再会を祝して、『引いて』あげるわ。感謝しなさい」
「待って、イシュトバン。逃げるつもりか?」
 声が止む。再び辺りが明るくなり、素早く見渡すが……罪錬慈の姿は、もう――――どこにもなかった。闇に溶け込むように、姿を消した後だった。
「クソっ! 逃げられた。まだ聞きたいことがたくさんあったのに」
「逃げられてしまったものは、仕方ありませんわ、お兄様」
「ぶひ、ぶひび、ぶひ《そうだな。ひとまず危機は去ったか》」
 ――クソ、また豚の姿に戻ってしまった、ぶひ。 
「助けていただき……ありがとうございますぅ。それでは、わたしぃは、行くところがありますので、これで失礼させてもらいます」
(ごめん……さい。これ……あなた……巻き込み……ないのぅ。だから……お別れ)
「えっ! ちょっと待ちなさいよ。行くって……どこへ行くのよ」
 ――なんだ今の声は……途切れ途切れでよくわからなかったが、ぶひ。
――心の声のようなものが、聞こえてきた、ぶひ。
 ――そう言い終えると優歌は、黎奈が止めるのも聞かずに、翼を隠し持っているかのように、身体を軽やかに翻し、教会から出て行ってしまった、ぶひ。
「ここに長居しても仕方ないので、いったん家に帰りますか? お兄様」
「ぶひ、ぶひひ、ぶひ。《ああ、そうだな》」
(やはりこのままだと……何かと、不自由ですわ。せめて意思疎通くらいは、行えるようにしたものですわ。あとで、お爺様に相談してみましょう)
 ――また、聞こえた、今度ははっきりと聞こえた、ぶひ。
――なんだんだこれは……ボクの身体にいったい、何が起こっているだ、ぶひ。

 マンドラゴラの根っこから、成分を小瓶詰め、ひき蛙をまるごと一匹いれ、さらにな、なまずのヒゲとトカゲの尻尾を入れ、日の当たらいところに三日置いておいたものを、飲めば『しゃべれるように』なる。
 ――でもそれを全部集めると、思うだけで……めんどくさい、ぶひ。
――って、言うか? マンドラゴラって、マンドラゴラって。幻想植物じゃないのか? 本当に実在しているだか? 怪しいものぶひ。と、思ったのもつかの間。
「それなら、全部持っていますわ。早速調合に取り掛かりますから、三日後を楽しみにしていてくださいね、お兄様」

 部屋に戻った神哉は、満面に広がる星空見上げながら、こことは違う世界のことを思い出す。
――実はボクーーーーこの世界の人間ではない、今日……それを思い出した、ぶひ。
 ――漆黒の魔導師シン・アルディオとして生きた記憶を……思い出した、ぶひ。


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