万物に質量を与えるヒッグス粒子の発見が大ニュースとなった昨年、素粒子物理分野でもう1つ重要な発見があった。ニュートリノの特性に関するもので、今後の物理研究に大きなインパクトを与えることは確実だ。キーワードは「CP対称性の破れ(CPの破れ)」だ。
■ノーベル賞で解明できたのはごく一部
CPの破れは粒子と反粒子(物質と反物質)の振る舞いの微妙な違いのことをいう。2008年にノーベル物理学賞を受賞した小林誠、益川敏英両博士の業績が、このCPの破れを説明する小林・益川理論だった。
宇宙誕生時、粒子と反粒子はきっかり同量が生み出された。それが誕生直後、CPの破れの影響で粒子と反粒子の間に数の不均衡が生じ、粒子の方が少し多くなった。それによって現在、粒子の方が残り、星や銀河が形成されたとみられている。
では、その粒子と反粒子の不均衡を小林・益川理論で完全に理解できるかというとそうではない。宇宙における不均衡の程度を1とすれば、同理論で説明が付く割合はその1000兆分の1以下だ。
物質を構成する素粒子はクォークとレプトン(ニュートリノや電子)の2グループに分かれるが、小林・益川理論が説明するCPの破れが確認されているのはクォークだけ。ただ大方の研究者はレプトン、特にニュートリノでCPの破れがあり、小林・益川理論と同じ仕組みで理解できると考えている。そしてこれが宇宙における粒子と反粒子の不均衡の主因との見方が有力だ。
■世界の有力機関が実験準備
問題はニュートリノのCPの破れを実験で実際に発見できるかどうかだ。実験を行う前提としてニュートリノの混合角という3つの値が決まっていなければならない。うち2つの値は1990年代末から2000年代初頭にかけて、日本を中心とするいくつかの国際共同実験で確定した。
残る1つの混合角は値が非常に小さく測定は難しいとみられていたが、2011年、日本を中心とするT2K実験のグループが世界に先駆けて測定結果を発表した。これを受けフランス、韓国、中国をそれぞれ中心とする3つの実験グループが精密測定に挑み、昨年、3つめの混合角の値が確定した。かつては夢だと思われていたニュートリノのCPの破れを探る実験が視野に入るようになったわけで、T2K実験グループなど世界の有力研究機関が、実験準備を進めている。
(詳細は25日発売の日経サイエンス8月号に掲載)
益川敏英、小林誠
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