中国では大学生3人に2人が村上春樹さんの小説を読んでおり、90年代末以降、村上さんと共に翻訳が多い日本作家は渡辺淳一さん——。筑波大大学院図書館情報メディア研究科で学ぶ2人の中国人留学生の最近の調査でこんな結果が明らかになった。中国社会の現実が両氏の文学を必要としているようだ。
2人は黒古(くろこ)一夫・同大教授に指導を受ける王海藍(ワン・ハイラン)さんと康東元(カン・ドゥンウェン)さん。王さんは昨年10月、山東省の山東大など5校の学生346人を対象にアンケートを行った。村上春樹の名前を知っていた人は全体の92%で、66%の人が読んでいた。読後感は「孤独と無力感に満ちている」が81%と多く、「社会システムや共同体を冷ややかに傍観」(39%)、「大量の性描写」(35%)の順。「ノルウェイの森」は192人が読んでいた。
康さんは北京の中国国家図書館などで中国語に訳された日本文学を調査し、この1月「日本近・現代文学の中国語訳総覧」(勉誠出版)を著した。107年間の5723点を収め、中国語訳の日本文学をほぼ網羅しているという。
現役作家で一番多いのは森村誠一さんの120点だが、刊行のペースはほぼ一定。村上作品は62点のうち98年以降の刊行が51点。渡辺作品は64点のうち98年以降が54点。この2人がいま中国で最も読まれている日本作家といえそうだ。
康さんは「高度経済成長下で豊かさを享受する中国の若者には空虚な孤独感があり、村上文学の喪失感に共感するのでは」と分析する。
渡辺さんの影響で90年代末から中国でも女性作家王海鴒さんの「牽手」「中国式離婚」など不倫小説が現れてきた。「都市化の進行で、家族同士のつながりが希薄になり、精神的支柱としての家庭が崩壊しつつあることの反映だろう」と康さんはみる。