東寺百合文書、金沢に模写 前田綱紀の功績伝え
北國新聞社 5月25日(土)2時37分配信
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「記憶遺産」に推薦される京都市・東寺の国宝「東寺百合文書(とうじひゃくごうもんじょ)」の模写が、金沢市玉川図書館近世史料館の加越能文庫に収められている。同文書の保存・管理に尽力した加賀藩5代藩主前田綱紀(つなのり)の命で写された約20冊で、江戸前期に史料の価値を見いだし、後世に伝える基盤を整えた「学者大名」の功績を伝えている。
加越能文庫に所蔵されているのは、東寺百合文書を幕末・明治期の郷土史家森田平次が編纂(へんさん)したもので、「松雲公採集遺編類(しょううんこうさいしゅういへんるい)纂(さん)」に収められている。
前田育徳会(東京)によると、前田家伝来の古書籍などを保管する尊経閣文庫にも、これほどまとまった量の東寺文書の写しは残っていないという。
東寺百合文書は、平安時代から千年以上にわたり東寺に伝わる約2万5千通の寺院文書で、荘園支配や寺院の組織形態、風俗など、中世社会を解明する貴重な史料として知られる。
綱紀は加賀藩お抱えの大物学者を動員して目録を作成させ、自ら目を通して筆写を命じた。1685(貞享2)年の事業終了時には文書を分類し、桐(きり)の書櫃(しょひつ)100個に収めて東寺に寄進した。
この先駆的な取り組みは、記憶遺産の推薦理由で「世界の重要なドキュメント遺産の保護の精神や趣旨を考慮すると、大変意義深い文書保護の実践」と評価されている。
綱紀は、全国各地に書物役、書物奉行を派遣して良書を収集するのみならず、所蔵主の承諾を得て文書や古記録を修繕するなど図書の保存にも力を入れていた。石川県立美術館(金沢市)の嶋崎丞館長は「文化財の保存管理の先駆けといえる。記憶遺産に認定されれば、綱紀の高い見識と先見性にあらためて光が当たるだろう」と期待を寄せた。
北國新聞社
最終更新:5月25日(土)2時37分