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【静岡経済 ヒットの系譜】

三立製菓 「カンパン」

◆素朴な味 改良重ね

看板商品の「カンパン」(右)と「源氏パイ」を手にする古谷由平常務=浜松市中区の三立製菓本社で

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 震災などの災害時に持ち出す非常持ち出し袋。中に詰める食料の定番といえば乾パン。「カンパン」として国内市場で占有率(シェア)七割とトップを占めているのが、老舗菓子メーカーの三立製菓(浜松市中区)だ。

 一九二一(大正十)年、金平糖(こんぺいとう)メーカーとして創業した。乾パンは日中戦争が始まった三七(昭和十二)年、戦地への携行食として旧陸軍からの要請を受けて製造を開始。終戦後の五九年に市販用として発売した。

 乾パンはイースト菌を自然発酵させるため、クッキーやビスケットと比べて製造に手間がかかるという。古谷由平常務は「大手各社が相次いで生産・販売をやめる中、根気よく生産を続けてきた。大事に育てたことで、シェアトップになることができた」と振り返る。

 七二年には缶入りを発売。袋入りは一年の賞味期限を、備蓄用に三年(現在は改良して五年)に延ばした。缶には氷砂糖も入れた。糖分補給や、水がない非常時でも唾液が出て食べやすくなるように工夫した。

 八〇年に公開された映画「地震列島」に登場するなど、非常食として広く認識された。その後も安定した需要に支えられ、この十年間は十億〜二十億円の売り上げで推移している。二〇一一年度は東日本大震災による需要増で、前年度比一・五倍の売り上げとなった。

 売り上げの約七割はスーパーやコンビニで販売されている袋入りだ。「食べ飽きないシンプルさに根強いファンがいる」と古谷常務。戦中の開発時、携行するおにぎりの代用品として入れたごまの香ばしい味は、今も昔も変わらない。消化も良く、一粒十キロカロリーと分かりやすいため、ダイエット食としても人気だという。

 長年変わらない味を守る一方、「改良の積み重ね」も続けている。「固い」というイメージがあるが、原材料の見直しを繰り返し、柔らかな歯応えにもしている。ロングセラーとなった乾パンに対する作り手のこうした姿勢は、もう一つの看板商品である「源氏パイ」にも反映されている。

 六三年、国内で初めてパイの量産化に成功。それまで手づくりのため高価だったが、量産で安価なパイ菓子を楽しめるようにした。「源氏パイ」は六五年に発売。ハートの形は「パルミエ」というフランスの洋菓子を基にした。ユニークなネーミングは、発売翌年に放映されたNHK大河ドラマ「源義経」にちなんだ。

 乾パン同様に、この十年はほぼ一定の売り上げを記録。昨年も大河ドラマ「平清盛」に合わせて、レーズンを乗せた姉妹品「平家パイ」も発売した。併売で源氏パイの売り上げも前年比約一割増と伸びた。

 「チョコバット」「カニパン」などの定番商品もある同社には、約二十年前から欠かさない毎朝の「儀式」があるという。

 前日に作った製品を全種類、役員たちが味見。役員室の机に並ぶのは毎朝、三十種類ほどになる。「一口ずつでもおなかがいっぱいになる」というが、安全や安心が重視される食品メーカーならではのこだわりだ。古谷常務は「これからも素朴な味は守り、良い商品をより良くする努力を続けていきたい」と話す。

(矢野修平、写真も)

 

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