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【静岡経済 ヒットの系譜】

さわやか 「げんこつハンバーグ」

◆客席にワクワク感

看板メニューの「げんこつハンバーグ」を前にするさわやかの富田重之社長=浜松市中区の店舗で

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 県西部を中心に二十八店舗を展開するレストランチェーンのさわやか(浜松市中区)。その看板商品が、来店客の約六割が注文するという「げんこつハンバーグ」だ。

 備長炭で焼いた二百五十グラムの丸い牛ひき肉は、大人のこぶしぐらいの大きさ。テーブルに運んだ店員は、客の目の前で半分に切り、熱い鉄板の上で最後の仕上げをする。中の赤い肉が焼け、肉汁の出る音を楽しみながら、焼きたてを味わうことができる。

 「ただのものじゃなくて、物語を売っているんだ」。創業者の富田重之社長は、創業時からあるハンバーグへの思いを語る。

 富田社長は創業以前、浜松市内の染色メーカーに勤務。しかし、二十六歳で結核を患って、その後十年間にわたって療養生活を余儀なくされた。

 四十歳の時、好きだった外食業を始めようと、経験も資金もない中で一念発起。「体が弱くてささやかな男から、さわやかな男に」と、店名を「さわやか」にして、一九七七年、菊川町(現菊川市)にレストランを開店。当時からのシンボルマークは「爽やか」の漢字一文字を使った。字の中に四つある「×」は「人」の字に替え、「人の集まりが一番大きくなる」という意味にした。

 「げんこつハンバーグ」と、二百グラムの「おにぎりハンバーグ」には、三つの思いを込めた。商品名は「父親のげんこつ、母親のおにぎり。両親の愛情料理を表現した」。素材はオーストラリアの指定牧場で、部位や牛種を管理した牛肉を使用。自社の加工場でひき肉に仕上げ、翌日に店で提供できる態勢をつくった。「産地から食卓まで自然の恵みをしっかり届けるようにした」という。

 商品の提供方法や店内の雰囲気づくりは、「人のエネルギー源である、祭りがモチーフ」。テント張りのオープンキッチンや、小学四年生までもらえるおもちゃは、祭りの夜店をイメージ。露店のように漂う肉の香りや、テーブルでの最後の仕上げも顧客のワクワク感を誘う仕掛けだ。

 この人気商品に支えられて、直近の二〇一二年八〜十二月で既存店の売上高は7・1%増、客数は6・7%増と好業績だ。

 ただ、ずっと順風満帆だったわけではない。創業当初はバブル景気もあって順調に業績は拡大したが、「調子に乗ってどんどんメニューを増やし、とんでもない店づくりをしていた」。

 転機は一九九二年、社長が「天使からの手紙」と呼ぶクレームの投書が届いた。「小学生のころから大好きだったが、今のお店にはがっかりした」という内容だった。かつ鍋やエビフライなど二百もあったメニューを削って、主力のハンバーグに特化した。今も毎月続けている「創業価格フェア」を始め、原点回帰した。

 その後も、O157問題やBSE(牛海綿状脳症)騒動に悩まされたが、〇四年に袋井市に自社加工場を整備し、安全態勢を整えた。〇七年には、磐田市出身の人気女優・長澤まさみさんがテレビで「げんこつハンバーグ」を紹介するとさらに人気となり、業績も回復した。

 「クレームが『天使の手紙』となってかじを切ることができた。時代の変化は店で起きており、店長は経営者並みの実力がないといけない」と語る。今後も店舗拡大を進める。店長となる人材が育成できれば、県外出店も視野に入れている。

(矢野修平、写真・山田英二)

 

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