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第一章 Bグループの少年と特Aグループの美少女
ダイジェスト版 第一話~第二十二話
 

 五月の学校からの帰り道。
 ふと騒ぎ声が聞こえて目を向けると、そこは五十メートル四方の空き地で、亮と同じ学校の制服を着た女の子一人が、他校の制服を着た男子生徒三人に囲まれていた。揉め事のようだった。
 見ている内に、物騒な気配が強くなってきたので、仕方ないと亮は助けに向かう。

 間に入った亮は、男達の注意を逸らして女の子を逃がすことに成功する。
 怒りながら迫ってきた三人の男を蹴り倒した亮は軽く一息吐くと、足元にいる男の制服をポケットを中心に探り始める。
 ポケットから抜き出したものを物色しようとしたところで背後に気配を感じて振り返る。そこで亮は絶句して固まった。

 振り返った先には、亮でも学校で何度か目にしたことがある、学校内でも特別目立つAグループ、特Aグループの超美少女、学校で一番有名なアイドルの如き存在が、そこに立っていたからだ。
 女の子はぺこりと頭を下げて亮に礼を告げてきた。
 これほど目立つ女の子とお知り合いになりたくもない亮は、早く会話を切り上げようとするが、そんな亮が女の子には珍しく感じたのか、なかなか亮の前から去ろうとしない。
 何かお礼をしたいと言い張る女の子に亮はこう提案する。

「――お礼として俺がこの連中にしたことを誰にも話さないって約束してくれないか?」

 女の子は戸惑いながらも承諾した。
 その後、亮は倒した三人が、後になって妙な考えを起こさないようにということも含め、この近辺を二度とうろつくなと、彼らの恐怖心を刺激しつつ言い含めた。

 三人が逃げ去ると、当然のように一緒に帰ろうと持ちかけてきた女の子――恵梨花に対し、亮は冗談じゃないと内心で大きく叫んだ。
 学校に用事があるとの言い訳で、来た道を戻ろうとした亮に、着いていくと返そうとする恵梨花。
 亮はそれを遮って、慌てて来た道を学校に向かって走って行く。「約束守ってくれよ~」とドップラー効果を作りながら。
 その後姿を呆気にとられて見送ってしまった恵梨花は一言、静かに呟いた。

「――普通、襲われた女の子を助けたら、少しは送って帰るのがマナーじゃないの?」

 それが実にもっともな意見なのは言うまでもないことだろう。

◇◆◇◆◇◆◇

 翌日の朝、HRが始まるまでの時間に、亮が机で睡眠をとっていると、教室がざわついた。
 それに伴い、先生が来るまで起こすなと伝えていた友人が、焦った声で呼びかけてきて、思わず舌打ちをしそうになる亮。
 そこで、頭上から自分を呼ぶ女の子の声が聞こえてきた。
 昨日のあの女の子だとすぐに気づいた亮は、寝た振りを維持するも、彼女が連れてきた友人の助言により、ため息を吐きながら体を起こすことに。
 クラス中から突き刺さるような視線を受けながら、亮は女子相手にいつも使う丁寧な口調で返事を返す。
 話を聞くと、恵梨花の用事は、やはりちゃんとしたお礼をしたいというもの。
 意固地になって、お礼を拒否しても状況が良くなるとは思わなかった亮は、仕方なく応じることに。
 そこで、昨日の約束について、それとなく聞くと、恵梨花についてきただろう、これまたとんでもない美少女がニヤリとして言った。

「――恵梨花は頑なに君との約束を守っていたわ、私が妬けるぐらいにね」

 この言葉によって、見事に教室を沸騰させた美少女達は、HRが始まるからと教室を出て行った。その際、昼休みにまた会う約束をとりつけて。

◇◆◇◆◇◆◇

 昼休み、屋上にて亮は恵梨花から、朝にも見かけた二人の女の子、梓と咲を紹介される。
 簡潔に自己紹介を終えると、可愛い女の子との連絡先の交換という、普通の男子なら心躍るイベントもあった――目立ちたくない亮にとってはありがたくないことだが。
 前置きはさておき、亮は、自分に会いに教室に来るのは、やめて欲しいと伝える。
 理由としては、簡単だ。
 三人の女の子が、とても目立つからである。
 咲は特に表情を変えず、梓は何か納得したような顔をする。
 そして、更に亮は告げる。
 もう、三人と接触するのはなるべくなら避けたいと。
 ここで、恵梨花が猛烈に反対した。
 戸惑う亮に梓が質問する。
 何故、そこまで目立ちたくないのか、と。
 至って正直に答えた亮に、梓が言い諭すように言葉を連ねる。
 話をしている内に、亮はいつの間にか外堀を埋められた気分を味わうことに。
 そして、最後に梓が問う。目立つのが嫌なら人目のないところで、会うのはどうだろうかと。
 亮は肩を落としながら答えた。

「――帰り道は誰がいるか分からんから、なるべく遠慮したいところだが……こういう屋上でならいい」

◇◆◇◆◇◆◇

 先ほどの昼休みにて、最後に一緒に帰る約束を交わしてしまった亮は、三人の美少女と肩を並べて裏道から駅へと歩いていた。
 雑談すること数分、亮は周囲の警戒は怠らなかった。
 警戒しているのは、もちろん他の生徒の目。
 不意に梓が言う。礼をしたいから、ちょっとついてきてくれと。
 訝しむ恵梨花を置き、亮は首を傾げながら梓の後をついて歩く。
 立ち止まり、振り返った梓は片手を挙げた。
 それが合図だったのか、恵梨花の隣にいた咲が、少し屈んで恵梨花のスカートを一気に捲り上げたのだ。
 目を点にする亮。対して、訳がわからないような恵梨花。
 ゆっくりとだが、状況を理解してしまった恵梨花は、絶叫と共に、背を向けて走って行った。見事なドップラー効果を作りながら。
 その後、見えた? と問う梓。
 何が見えたのか、迷いのない口ぶりで即答する亮。
 そしておもむろに頷いた梓。

「うん、あれが私と咲からの親友を助けてくれたお礼」
「ひでえな、あんた」

 亮は呆れた声で返したのだった。

◇◆◇◆◇◆◇

 翌日の放課後、一人でゆっくり帰ろうと、裏道に足を向けた亮だが、そこには恵梨花の姿が。
 にっこりとしながら、一緒に帰ろうと誘いかけられ断ることも出来ず、二人並んで帰ることに。
 いつも三人で帰っている訳ではないといった話――梓は生徒会に入っていて、咲は手芸部のため――を聞いて、ふと亮が言う。
 この裏道には、不良もよく通るから、なるべく一人で、ここから帰るなと。
 そんな心配の言葉を掛けられた恵梨花は、嬉しそうに微笑む。
 ため息を吐いた亮は、どうしてこの道で一人で帰っていたのかと尋ねる。
 恵梨花は少し考えてから答えた。

「――そこは、もしかしたら桜木君と一緒かな。一人になりたくて、あとジロジロ見られるのも嫌になる時があって」

 見た目がいいなら、いいなりに悩みがある、それも当り前かと納得する亮に恵梨花は言う。
 たまに、この道で一緒に帰って欲しい、といった旨を。
 亮は冗談めかして返し、そして茶化しあった末に、「たまになら」と了承する。
 その時、にっこりと微笑んだ恵梨花が、亮には妙に眩しく見えた。

◇◆◇◆◇◆◇

 その週の日曜日、朝の九時前、自宅から学校を超えて五駅――自宅から学校の駅までは五駅――の学校の駅前よりも賑わいの目立つ駅で、眠たい目を擦りながら亮は降りた。
 前日の深夜一時――正確には本日の午前一時――に梓からメールが届いた。
 内容は恵梨花がお礼をするために待っているから、ここへ行けといったものである。
 近づいて見えた恵梨花の私服姿はうすいピンクを基調とした花柄のマキシ丈のワンピースに白のカーディガンで、実に涼しさを感じさせる格好に亮は思えた。素足がまったく見えないのに残念な気持ちがしたが。
 少し俯き加減に腕時計を見ていた恵梨花は、駆け寄る亮に気づいて、すぐに顔を上げて笑顔を見せたが、目を点にして、開けようとした口を半開きのままにして固まった。
 その様子に首を傾げた亮は、恵梨花の髪型がいつもと違うのに気付いた。
 いつもはふわふわのロングをおろしているだけだが、今日はサイドで括って、肩の前にその尻尾がある。
 亮の中で可愛さ割増のサイドポニー恵梨花を感心して見ていると、固まっていた恵梨花が驚いていた理由を話す。
 内容としては、学校にいる時の亮とは印象がまるで違うことからのようだ。
 その違いとは、伊達眼鏡をかけていなくて、髪型が違うだけなのだが、恵梨花からしたら、大変なものだったらしい。
 その後、二人して普段とは違う格好を、似合うと褒め合い、変な空気になったところで、亮が今日は一体何をするのかと問いかける。
 返ってきた答えに困惑した亮は、全部、梓の仕業だということを確認する。
 梓の提案したお礼をするつもりだった恵梨花は、亮との認識違いが分かり、あからさまに落ち込んだ。
 見るに耐えれなくなった亮は、どうしようかと思案する。
 せっかくの日曜日、天気も良くて、朝もこんなに早く起きてしまって、帰って寝るのも、もったいない気がする。

「――あんた、映画も買い物もするつもりで来たんだよな?」

 肯定する恵梨花に、じゃあ、行くかと返す亮だった。

◇◆◇◆◇◆◇

 二人で映画を観終えると、もうお昼の時間である。
 亮は近くの公園まで引っ張られ、そこで恵梨花がバスケットから出したのは、彼女のお手製の大量――亮の胃袋仕様――の弁当だった。
 手作り弁当を目にし、何やら妙なほどに感慨深くなる亮。
 恵梨花はそんな亮に首を傾げながらも、「どうぞ」と勧める。
 恐る恐る口にした亮は、過去の記憶を刺激され、不覚にも涙を流してしまった。
 醜態を見られたくないと隠れる亮だが、恵梨花に捕まえられ、そして抱きしめられる。
 驚きの余りに、涙が引っ込んでしまう亮。
 亮が落ち着いたからなのか、離れようとした恵梨花を、亮が抱きしめた。
 今度驚いたのは恵梨花だったが、抵抗もせず、二人は互いに優しく抱きしめ合った。

 その後、中断していた食事を終えた二人は、アウトレットの中のお店を回って冷やかし、気づけば夕方になっていた。
 電車で途中まで一緒に帰った亮は、一人になった帰りの中で、自分の初恋に気づく。
 しかし、それをそのまま受け入れるつもりのない亮は、自分に言い聞かせるように、誰にも聞こえない声で呟いた。

「――会うのは、それよりも一緒に帰るのは、もう、なるべく避けるか……」

◇◆◇◆◇◆◇

 それから二週間、恵梨花達と会うのを控えていた亮だが、帰りの裏道にて、待ち伏せにあい、仕方なく一緒に変えることに。
 四人で歩くこと数分が経過した頃、梓は恵梨花と咲の二人を先に行かせて亮と二人での会話を希望する。
 何故、恵梨花を避けるのかといった梓の疑問に、亮が答えに窮した時、恵梨花が焦燥を浮かべた顔で急いで戻ってきた。
 息を切らしながら告げられた内容とは、この先の広場で同じ学校の生徒が他の学校の生徒に何人にも囲まれて喧嘩をしているということ。
 男同士の喧嘩なら放っておけと主張する亮だが、三人娘に助けてやってと頼まれ、仕方なく行くことにする亮。
 他校の六人の学生から同級生の三人を助けた亮だが、六人が復讐に来ないように、キッチリと脅しをかけた。
 その時の亮を見てしまった三人娘は、つい恐怖の宿った目を亮に向けてしまう。
 これでもう元の関係に戻れないと思った亮は、三人に別れの言葉をかけ、一人立ち去ろうとした。
 しかし、恵梨花はそれを許さなかった。
 恐怖を払いのけ、怒りのこもった目で亮の頬を張り飛ばしたのだ――何度も。
 自分に恐怖しない恵梨花に面食らった亮は、恵梨花に問う。
 自分が怖くないのか、と。
 恵梨花は答えた。
 怖かったけど、それよりも勝手なことを言って、立ち去ろうとしたあなたに腹が立った、と。
 それから連なる恵梨花の言葉を聞き終えた亮は、自分の心配していたことが過ぎ去ってしまったのだと気づく。
 色々と吹っ切れた亮は、梓、咲に勝手なことを言ったと謝罪する。
 二人は、その謝罪を受け入れるよりも、怯えた目を向けてしまったことを謝罪した。
 それから仲違いしかけたのを解消させ、互いに親密さを増したと感じる、亮、梓、咲の三人。
 そして、亮は恵梨花に対して、自分の想いを伝える。
 恵梨花は涙を流しながら、亮の想いに応じた。

「――私もあなたのことが好きです」

◇◆◇◆◇◆◇

 翌日の朝、亮は明の何気ない一言で、自分の目立ちたくない精神を悟られていたことが分かって唖然とする。
 そして、今まで黙っていてくれた友人の配慮に感謝する。
 自分の人を見る目もまだまだ甘いなと思わされた亮は、笑って親友に言ったのだ。

「――これからもよろしく、明」

 昨日、今日といいことがあり、気分のよかった亮だが、彼にとってのいいことはこの時に終わったのだった。

 



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