せっかく根づいた節電を、ここで止めてはいけない。
この夏、「節電が定着し電力不足に陥らない」として、東日本大震災のあと初めて、全国で数値目標つきの節電要請が見送られる。だがあくまで、関西電力大飯原発3、4号機が動いていることを前提とした話だ。
この2基は昨夏、「原発ゼロでは大幅な電力不足が生じる」として、暫定的な安全審査で動かしたことを忘れてはならない。福島の事故をふまえた厳しい規制基準には「おおむね適合している」として9月まで稼働が認められる予定だが、専門家の調査では、直下に活断層がある可能性も指摘されている。
「安全な原発だけを動かす」という最低限の体制さえ、まだまだ徹底されていないのが現状である。
去年の夏、皆が協力し、大飯の再稼働がなくても大丈夫だった節電を成し遂げたことを思い出そう。厳しい夏を「原発ゼロ」で乗り切れる実績を積み上げれば、多くの人が望む脱原発の道筋が見えてくる。
■数時間だけでOK
それでも、暑い夏に冷房をがまんするのはつらい。高齢者や病人を抱えた家庭ではなおさらだ。いつまで耐えればいいのかと思う人も多いだろう。
節電とは何か、改めて考えてみよう。
電力不足が怖いのは、需要が供給を上回ると大規模な停電を引き起こすからだ。心配なのは、最も需要が高まる真夏の数日間の昼間。電力各社は、この数時間のピーク需要を満たそうと発電所を建て続けてきた。
つまり、このピーク需要さえ下げれば余裕が生まれる。ずっと冷房をがまんしなくてもいいのだ。年に数日間、数時間だけなら、電気製品を消したり、外出先で涼を取ったり、協力できる人は少なくないだろう。
この協力を促すのに有効なのが、ピーク時を避けて使えば電気代が下がる仕組みだ。
だが、家庭向けに昨年こうした料金プランをつくった関西電力の場合、契約に至ったのは全体の0・07%。全く有効な対策になっていない。節電にみあうメリットが感じられる料金設定の工夫はまだまだ足りない。
電力会社は、電力の安定供給のため「原発の再稼働に全力で取り組む」と繰り返すが、他にも全力で取り組むことはいくらでもあるではないか。
そして「節電=がまん」と決めつけるのはやめよう。
■がまんしない方法も
日本の製造業で大規模な省エネ設備投資が行われたのは、1970年代の2度の石油危機の時だ。だが90年代に入って石油価格が下落すると、バブル崩壊で体力が弱った企業の多くが足踏みに転じてしまった。
オフィスや住宅も、旧型の断熱器具や照明、空調設備が多い。最新型の省エネ設備に投資するだけで「がまんしない」節電ができる余地は大きい。
脱原発への道筋を探った大阪府市エネルギー戦略会議は、日本中の工場や会社、家庭などで更新時期を迎えた設備を最新省エネ設備に置き換えるだけで、2030年までに消費電力の3割削減が可能と試算した。
一度投資するだけで節電効果が続く。日々の電気代が下がるので資金も確実に回収できる。電気代が上がっても、使う量が少なければ影響は小さい。
専門知識や当座の資金がない中小企業には、自治体などの公的機関が無料で経費削減につながる省エネ診断をしたり、省エネ投資向けの低利融資を行ったりしている。もっと活用しよう。
■底力発揮は今が好機
投資が広がれば省エネ機器の開発が活発になり、より優れた安価な省エネ製品が生まれ、節電効果はさらに高まる。生産拡大で雇用も生まれる。
経済界には、節電は企業活動に負担だと否定的な人が多いが、思考停止ではないか。発想を転換すればこれほど大きなビジネスチャンスはない。
エネルギー問題に直面しているのは日本だけではない。ウランも石油も限りある資源だ。いま世界中で、ITを駆使し、街全体で再生可能エネの有効活用をはかるスマートシティーの社会実験が始まっている。
悲惨な原発事故を経験した日本だからこそ、得意の先端技術を生かして省エネ製品やシステム開発に力を結集し、世界が求める技術を育てられるはずだ。
石油危機のとき、日本人はピンチを逆手にとり、世界有数の省エネ社会をつくりあげた。節電は、資源のない日本の最大のエネルギー源は「人」であることを思い出す好機だ。
朝日新聞の世論調査では、原発を経済成長に利用しようとする政権の方針に、59%が「反対」と答えた。原発に頼る安倍政権の路線は、省エネ社会へのチャンスをつぶしかねない。
一人一人が賢い節電を前へすすめ、チャンスをつかまえる。そんな熱い夏にしたい。