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第1章
楽しまなきゃ損
石釜から漂う甘い香り ―― 癒されるなぁ。
今日のおやつはアーモンドとドライフルーツをたっぷり入れたタルト。
間違えた、アーモンドもどきだった。

「アンジュ様、綺麗に焼き色がつきましたよ」

満面の笑みで、侍女のミュスカが焼き型に入ったままのタルトを持ってきた。
串で刺して焼けてるか確認。うん、綺麗に焼けてる。

「取り出して粗熱とってて。お茶の準備してくるね」

「あっ、ダメですよ、アンジュ様! お茶をお出しするのは侍女である私の仕事です!」

仕事取らないでくださいよ、って言うミュスカの訴えに、私は仕方なくソファで待った。
自分だけ動かないで他の人だけ動いてるのって落ち着かない。
『アンジュ様』なんて呼ばれる身分じゃないしさ。

そもそもアンジュ、じゃなくて杏樹だし。
佐藤杏樹っていうれっきとした日本人。
日本にいた頃は、ごく普通の学生だったんだもん。

あー、違う。
普通、ってくくりには入らないね、私のこの二十年は。
七歳の時に遺伝学上の母親から
「あんたがデキたからあたしの青春が潰れたのよ!」
って罵声を浴びて、あまつさえその母親はどっかの男と駆け落ち。
残された板前の父と二人暮らしして、その父は三年前に再婚。
幸いなのは再婚相手が私も大好きな人だったって事。
特異な環境下でも私がグレなかったのは、父と継母が私をとても愛してくれたから。
―― 私って、本当に波乱万丈。
テレビの昼ドラみたいにドロドロな半生だって客観的に思う。
父に憧れて料理人になる事を決め、菓子職人の道を目指してたのに。
就職活動中に落雷にあってこんな所にワープ? させられてるんだもん。
常識的に考えて『普通』じゃないわな。

そう、ここは日本じゃない。
地球から遠く離れたフィアセルク星、らしい。
最初にそれ聞いた時は、私ってアタマおかしくなったと思った。
感覚はしっかりあるから夢じゃないってわかってたし。
地球からここに来る間、きっと数分間だったんだろうけど、この星を管理・統括している『女神』から説明を受けたのよ。
女神ってのは、私が便宜上使ってる単語。
本人は神様じゃないって言うけど、やってる事は神様だからね。
『あなたは今からここの住人になったの。わたしと連絡取りたい時は寝る前に願って。夢に出てくるから。じゃ、うちの子たちをよろしくね』
ちょっと砕けた話し方する女神様は手をヒラヒラさせてそう言った。

女神の話だと、宇宙に浮かぶ星々にはそれぞれが『創世主』から管理を委ねられた『管理者』がいて、星の発展の為に尽力するんだって。
でも、単一の住人からでは発展は緩やか過ぎて、思うように進化しない場合もある。
そういう場合『管理者』同士で住人の交換をする。
進化の過程には刺激が必要なんだって。

この話を聞いて、嘘じゃないかもって思ったんだ。
だって、人類っていきなり文明を作っちゃったりすごい発明しちゃったりしてるじゃない?
ピラミッドもそうだし、どうやって考え付いたのって疑問に思う発明品とか。
ずっと前に吹奏楽部に入ってた友人から聞いた話を思い出して、これはマジだって確信したの。

"ヴァイオリンは中世にいきなりあの形で生まれた神なる楽器"

この言葉、今の状況に当てはまりすぎ!
試行錯誤のあともないなんて不思議だもん、異星人が係わってたっておかしくない。

オカルト好きな私は『女神』の話を信じて、この星で暮らしてる。
自分に課せられた役目を終えれば元の星に還してくれるって話だし、実際還った人もいるみたいだしね。
『役目を終えたらわたしがあなたを迎えにくるわ。その時、残るか戻るか決めて頂戴。連れ去った時間に戻してあげてもいいし、先の時間に戻してあげてもいいわよ』

フィアセルクに来てもうすぐ三ヶ月。
未だに自分に課せられた役目ってのが分かんないけど、いつかは分かるでしょ。
私は超ポジティブだから、今のこの状況を楽しませてもらってる。
人生一度きりなんだもん、楽しまなきゃ損だもんね。

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