優良農地工場に転用可 避難者の事業再開支援 県が基準緩和
東京電力福島第一原発事故による長期避難者の事業再開促進のため、県は開発規制の厳しい優良農地である第一種農地(4ヘクタール以下)の転用許可基準を緩和し、避難先で工場や作業所の建設ができるようにする。これまでの転用は農地の近隣住民らに限られていた。第一種農地は交通などの利便性が良く、新たな土地での事業再開を目指す避難者から基準緩和を求める声が上がっていた。
4ヘクタール以下の農地転用の許可権限を持つ県が21日までに決めた。
基準緩和により転用が新たに認められる対象者は、原発事故で避難区域が設定された地域からの避難者が中心。平成23年の東日本大震災、新潟・福島豪雨をはじめ、今後発生する大規模自然災害で被災した事業者も含まれる。市町村発行の罹災(りさい)証明書があり、農地の地権者と合意の上で事業再開に必要な作業所や工場建設を目的としていることが条件だ。
これまでの基準で転用が認められたのは、事業主が農地近隣に長く住んでいる場合のみで、事業所と住宅を近接させることも条件になっていた。今回の基準緩和では、仮設住宅や借り上げ住宅に暮らす避難者が通勤しながら働けるように、事業所のみを先行して整備することも認めた。
転用の手続きは【図】の通り。農地の売買や賃貸で事業主と合意した地権者が各市町村農業委員会に転用を申請する。県と各市町村農業委は現地調査をした上で、県農業会議に転用を諮問。周辺農地の営農に大きな影響がないと農業会議が判断すれば、県が市町村農業委を通じて地権者に転用許可を通知する。手続きは1、2カ月程度かかる。
第一種農地は土地改良事業が行われ、10ヘクタール以上のまとまった良好な営農条件を備えている。住宅地から離れており、住民への騒音対策も比較的容易になる。ただ、転用で第一種農地から雑種地や宅地に地目変更された土地は自由に売買できるため、避難者支援とかけ離れた目的での土地取引が進むことも懸念される。県は「市町村と県が転用の手続きの段階から厳しく審査し、目的通りの利用を促す」としている。
南相馬市農業委には、避難区域の同市小高区や双葉郡からの避難者で、同市原町区などの第一種農地に新たに事業所を整備したいとの問い合わせが10件ほど寄せられている。市の担当者は「復興需要で、本格的に事業再開を目指す避難者が増えている。南相馬市を新たな拠点とし地元の復旧・復興につなげたい」と歓迎する。
県は各市町村農業委に文書で基準緩和を通知した。しかし、ほとんど周知されておらず、今後は農業委窓口や行政書士らを通じ、啓発を図るという。
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